論文 - 冨山 清升
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TOMIYAMA Kiyonori . Genetic variations of esterase isozymes in land snail, Satsuma tanegashimae (Pilsbry, 1901) ( Gastropoda; Camenidae ). . Biogeography19 175 - 186 2017年12月査読
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記述言語:英語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Biogeography Society
Abstract
The intra-specific variations in the Camaenid land snail, Satsuma tanegashimae (Pilsbry, 1901) which is distributed in the northern parts of Ryukyu Islands, are studied in terms of esterase isozymes. Some genetic variations were found in kidney esterase isozymes of this species. The results of electrophoresis showed that 7 gene loci (Es-1, Es-2, Es-3, Es-4, Es-5, Es-6, and Es-7) existed in esterase isozymes, and that 6 gene loci were polymorphic. It was revealed that 4 esterases (Es-1, Es-5, Es-6 and Es-7) are aliesterase-like in characteristics. The intraspecific variation of esterase isozymes in Satsuma tanegashimae (Pilsbry, 1901) was small relative to the interspecific variation among allied species in the same genus, Satsuma. Populations belonging to the Mishima-Tokara group were polymorphic in esterase isozyme heterozygosity. The Uji-gunto population had particular genes (Es-3Eu and Es-4Fu), not existing in other populations. This fact suggests that the Uji-gunto population has been isolated from other adjacent populations for a long period. The populations of Take-shima and Ioo-jima are similar to that of Kuro-shima in shell shape and esterase isozyme pattern (not existing gene Es-5G). All the biota of the former on these two islands (Take-shima and Ioo-jima) are thought to have been extinguished by the great volcanic explosion that took place about 7,300 years ago. Consequently, the populations of S.tanegashimae inhabiting these two islands may have been introduced from Kuro-shima. Genetic distances between the populations of S. tanegashimae using esterase isozymes and calculated by Nei's equation were correlated with Maharanobis D-square using 35 shell characters (r = 0.88). However, dendrograms drawn by cluster analysis based on the genetic distances showed different results from that of the shell characters. It seems that this fact was caused by the use of only one enzyme system (esterase) in this study. The precision of genetic distances was expected to become greater by increasing the number of isozymes. -
鮒田理人・冨山清升 . 鹿児島県薩摩半島南部の陸産貝類相の生物地理学的分析 . Nature of Kagoshima 43 111 - 127 2017年5月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
陸産貝類は,移動性が低く,進化が限られたごく狭い範囲で起こるため,地域的な種分化が多い.このような特性から,各地域における陸産貝類相の特徴を掴むのに非常に適している.
本研究の調査地とした鹿児島県薩摩半島南部地域は,九州の南西端に位置し,東には錦江湾,西には東シナ海を臨んだ自然が多く残る地域である.しかし,鹿児島県本土以外の諸島,トカラ列島地域や桜島などに比べ,鹿児島県本土における陸産,海産貝類についての先行研究(主にその地点に生息する生物群の種多様度)が少なく,特に,陸産の微小貝についてそのデータが乏しい.そこで本研究では,鹿児島県レッドデータブックに記載されている種も重要な調査対象の一つとして,鹿児島県薩摩半島南部地域の自然林または人工林での陸産貝類相,特に微小貝類相の多様性を調査し,それを基に陸産貝類の特徴や地点間の相違点を明らかにすることを目的とした.
本調査は,鹿児島県薩摩半島南部地域内17地点で土壌を持ち帰り,その中に生息している陸産貝類の採集を行った.採集した陸産貝類は必要な処理を行った後に同定,種別にラベルをつけ保存した.その後地点ごとに多様度指数と,各地点間の種・属の類似度指数,群分析を行った.
鹿児島県薩摩半島南部の自然林または人工林が見られる地点17ヶ所において,調査および同定の結果,原始紐舌目6種,有肺目16種の合計22種の陸産貝類が採集された.17地点のうち,最も多くの種数が見られたのはPt.16のメディポリス前(指宿市)とPt.8の入来(薩摩川内市)であり,合計7種が採集された.最も種数が少なかったのは,Pt.5伊集院(日置市),Pt.6冠岳(串木野市),Pt.9小山田町(鹿児島市),Pt.15青隆寺(指宿市)の4地点で,合計1種しか採集されなかった.また,鹿児島県のレッドデータブックの中の〈鹿児島県のカテゴリー区分〉に基づき,発見された各種の希少度評価を行ったところ,準絶滅危惧が15種,分布特性上重要が7種確認できた.
本調査の結果,針葉樹林よりも広葉樹や雑木林の方が,種数・個体数ともに多くの陸産貝類が生息している傾向が見られた.また類似度について,地点同士の距離が近くても必ずしも出現する種に類似性が見られるとは限らないという結論に至った.その原因として,陸産貝類の非常に低い移動能力が関係していると考えられる.今回の調査では多くの準絶滅危惧にカテゴリーされている種が見つかったが,より正確かつ詳細を明らかにするために,更なる細かいサンプリング(季節ごと,人員を増やしての調査),コドラート法などを用いた調査が必要と思われる. -
東中川 荘・冨山清升 . 鹿児島県枕崎市の陸産貝類相の生物地理学的分析 . Nature of Kagoshima43 99 - 109 2017年5月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
陸産貝類は,他の動物と比較すると,移動能力が著しく低いため,狭い範囲内においても種分化が起こりやすい.鹿児島県は南北に約600㎞の県土を有し,九州島の本土と多くの離島で形成されている.特に離島では,本土と比較して自然豊かであり気候にも恵まれ,様々な動植物が存在している.そのため,離島は様々な動植物において研究対象にされたりしているが,本土においては,未だに詳細な調査が行われていない.そこで,本研究では,環境の影響を受けやすいという生態的性質をもつことから,森林環境における指標動物として利用できる陸産貝類に焦点を当て,多様性や地点間の相違点を探るためにも,分布調査を行った.
本調査は,鹿児島県枕崎市の神社や公園の自然林11地点を対象にして陸産貝類の採集を行った.採集は,主に落ち葉の下や土壌上,樹上,朽木周辺を中心に行う見つけ取りと,微小貝を採集するために各地点の落ち葉を含む土壌を約500ml持ち帰り,同定をする上で必要な処理をし,同定後,種別に殻はチャック付きポリ袋,軟体部はエタノール中に保存した.そして,採集したデータをもとに種別,個体数のリストを作成し,各地点の多様度指数や類似度指数を求め,群平均法を用いてデンドログラムを作成した.
11地点における調査の結果,計7科12属14種,412個体の陸産貝類を採集した.11地点のうち,最も多くの種数が採集されたのは瀬戸公園の7種類であった.最も種数が少なかったのは,妙見神社と片平山公園の3種類であった.個体数においては,最も多く採集されたのは,枕崎神社の73個体であった.最も個体数が少なかったのは,津留神社の7個体であった.
本調査において,11地点中9地点で採集されたヤマクルマガイと11地点中7地点で採集されたアズキガイが枕崎市内の陸産貝類の優占種といえる.
本調査では,神社や公園の自然林を中心に行い,個体数や種数が多かった地点は,鬱蒼と茂った林内ではなく,人が手を加えた,全体的に明るく湿度の保たれた照葉樹林の林縁であった.
多様度指数と類似度指数においては,林内の森林環境や土壌環境によって値が異なっていた.また,2地点間の距離が近くても類似度指数が高くない場合がある.その理由としては,最初に述べたように,陸産貝類の移動能力の低さが考えられる.
本調査終了後,課題や発見もいくつか挙がり詳細な調査や解析が必要とされた.また,理解を深めるためにも森林環境や土壌環境が具体的にどのような影響を及ぼすのかも合わせて調査することも必要だろう. -
田口晃平・冨山清升 . 鹿児島県と宮崎県の県境における陸産貝類の分布 . Nature of Kagoshima43 89 - 98 2017年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
南九州地方に位置する鹿児島県は、年間を通し、日本列島の中でも気候が温暖である。また、数多くの自然にも恵まれ、生物多様性も豊かな地域である。その中で陸産貝類は移動範囲が狭く、その地域の生物多様性を測る指標ともなっている。
鹿児島県では、薩摩半島では陸産貝類の調査が比較的多く行われているが、大隅半島では調査があまり進められていない状況である。そこで、本研究は大隅半島の中でも、研究報告の少ない鹿児島県と宮崎県との県境に焦点を当て、新たな研究報告を加えることを目的とした。
今回は、鹿児島県曽於市で5地点、宮崎県都城市で5地点の計10地点において陸産貝類の分布調査を行った。また、分布調査を行うと共に、変形シンプソンの多様度指数を利用した調査地点毎の多様度指数、及び野村・シンプソン指数を利用した調査地点間での類似度を算出した。類似度については、クラスター分析を利用しデンドログラムを作成した。
10地点での陸産貝類の分布調査の結果、9科23属26種、計174個体の陸産貝類を採集した。26種の中で、最も多くの地点で見られたのは6地点で採集されたタカチホマイマイ、ミジンヤマタニシ、ヤマクルマガイであった。個体数から見ると、ヒダリマキゴマガイが31個体と最も多く採集され、次いでタカチホマイマイが19個体と多かった。地点毎に見てみると、稲妻森林公園で14種と最も多くの種数が採集され、次いで悠久の森が13種と多かった。
今回の調査で、多くの個体数が採集されたヒダリマキゴマガイ及びタカチホマイマイについては、鹿児島県全体で広く分布していると言えるだろう。1地点で1個体のみ採集できたシリブトゴマガイについては、大隅地方北部での記録は初めてとなる。調査地点を増やしていけば、霧島地方や宮崎県方面で採集できるのではないかと考えられる。個体数、種数共に多く採集できた稲妻森林公園、悠久の森については、キセルガイ科が多く採集できたからだと考えられる。その他の要因としては、どちらの環境も自然が多く残っており、光も程よく差し込んでいたことが挙げられる。
今回の調査は、県境における陸産貝類の分布状況を示すことであったが、調査地点を曽於市と都城市と限定していたために、全ての分布状況が明らかにはなっていない。今後は、他の県境でも調査を行い、レッドデータブックや今回の調査と比較していくことが必要になってくるであろう。 -
君付雄大・冨山清升 . 鹿児島市北部における陸産貝類の分布 . Nature of Kagoshima43 77 - 88 2017年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
鹿児島県は,南北に広大な土地を有し,多種多様な生態系が見られ,生物が分布している.その中で,陸産貝類は乏しい移動能力のため,独自の気候に適した固有種が多く発見されてきた.鹿児島県の離島は本土とは異なった気候を有しているため,詳細な調査を行い多くの固有種が生息していることが分かっている.しかしながら,鹿児島市周辺は自然度に乏しいと見なされ,見過ごされてきたため,詳細な調査が行われてこなかった.そこで,本研究は,鹿児島市の北部に位置する八重山,郡山,吉田,吉野を主な調査地として,陸産貝類相の調査を行い,特徴や類似点,相違点を明らかにすることを目的とした.
本調査は,2016年4月から12月にかけて13地点でサンプリング調査を行った.採取は主に見つけ取りで行い,落葉内部や樹幹を1時間程度探した.微小貝については,見つけ取りで採取が困難なため,土壌を約500ml採取し,研究室に持ち帰り,乾燥機,ふるいにかけ,双眼実体顕微鏡を用いて採取を行った.その後,水で十分に洗浄し乾燥させ,種の同定を行い保存した.採取できた陸産貝類をもとに多様度指数,類似度指数を算出した.その後,他地点との類似性を分かりやすくするために,類似度指数を使い,クラスター分析を用いてデンドログラムを作成した.
調査の結果,2目11科19属19種の陸産貝類が採取できた.その中で,吉田運動場で種数,個体数ともに最も多くを記録し,八重山公園,花尾神社では最も少ない種数,寺山公園で最も少ない個体数を記録した.算出した多様度指数は吉野公園が最も高く,八重山公園,花尾神社で最も低い結果となった.花尾神社は調査を行った他の12地点と比べデンドログラムから最も異なった環境となっていることが分かった.
鹿児島市北部においては,採取数や出現地点数からアツブタガイとヤマクルマガイが陸産貝類の優占種であると考えられる.他の調査記録から鹿児島県に数多く生息しているアズキガイが今回の調査地点ではほとんど採取することができなかった.鹿児島市北部ではアズキガイが生息するのに適さない要因があると考えられる.また,吉野公園は最も多くの希少な微小貝が採取できており,重要な生息地となっていることが考えられる.オオクラヒメベッコウに関しては,県本土では大隅地方に生息していると記録があるが,薩摩地方では記録がない.吉野公園は薩摩地方でのオオクラヒメベッコウの生息の初記録である.調査した地域では土壌が豊かな地点ほど多様度指数が高くなる傾向にあった.逆に,八重山公園や八重山遊歩道沿いなどでは,土壌の層が薄かったため,種数や個体数が乏しかったと考えられる.鹿児島市北部においては地域的な関連はあまり見られなかった.これは険しい山々によって生息地が分断されてしまったことが原因ではないかと考えられる.この調査結果をより信憑性の高いものにしていくには,より細かい調査が必要になってくると考えられる. -
岡本康汰・冨山清升 . 鹿児島県南九州市・指宿市における陸産貝類の分布 . Nature of Kagoshima43 43 - 58 2017年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
鹿児島県本土は,日本本土に広く生息する陸産貝類種の南限となっている例が多く,薩摩地方・大隅地方・霧島地方を数多くの種が分布の南限としている.近年,鹿児島県本土において陸産貝類相の調査が行われているが,薩摩半島南部に位置する南九州市での調査では未調査地域が多く,陸産貝類相を明らかにするには不十分であった.そこで本研究では先行研究よりも調査地点数を増やし,より詳細な陸産貝類相を明らかにすることを目的とした.
2016年2月から11月にかけて,南九州市・指宿市の7地域31地点で調査を行った.採集には見つけ取りまたは土壌サンプルをふるいにかける手法を用い,採集した陸産貝類は必要な処理を行った後,同定,保存した.調査結果から各地域の多様度および類似度を求め,類似度からクラスター分析を行った.
調査の結果,13科27属35種,合計1328個体の陸産貝類が採集された.7地域全てで出現した種は7種,6地域で出現した種は4種であった.1地域でのみ出現した種は4種であり,そのうち2種は1個体しか採集されなかった.最も多くの種が採集された地域は南九州市(中央部)と指宿市の21種であり,最も種数が少なかったのは南九州市(南西部)の16種であった.
多くの種が採集された地点は,いずれも神社の社寺林,畑や民家近くの植林地といった人の手が加わっている地点であった.また,各地域の多様度指数を見ると,海岸付近は低く,内陸かつ山地と市街地が接しているような地域で高かった.地域間の類似度はすべて0.5以上であり,陸産貝類相に大きな違いは見られなかったが,最も類似度が低かったのがB地域(山地周辺)とF地域(海岸付近)間であったことは,環境が異なるほど類似度が低くなることを示唆している.類似度デンドログラムは,明瞭な2つのクラスターに分割された.2つのクラスターはそれぞれ薩摩半島内陸部の山地周辺と,海岸や農地周辺の地域に対応しており,それぞれの地域の広域的な環境に対応した陸産貝類相が形成されていると考えられる.今後はさらに調査範囲を絞り,より詳細に陸産貝類相と微環境との関係を調査すると共に,広域的な環境との関連性も明らかにする必要がある.
はじめに
陸産貝類は,極めて移動分散能力が低く,また安定した環境でなければ恒常的な繁殖ができないため,分布が不連続になりやすい.そのため集団間の遺伝的交流が少なくなり,局所的な特殊化が多いことから,生物地理学の研究対象として有益な情報を与えてくれる.また,環境の影響を受けやすい特性から,環境指標動物としての利用法も考案されている(Nurinsiyah et al, 2016).
鹿児島県は,日本本土に広く分布する数多くの陸産貝類種の南限となっている例が多く,九州南部の薩摩地方・大隅地方・霧島地方などの地域を数多くの種が分布の南限としている(鹿児島県,2016).近年の鹿児島県本土における陸産貝類相の調査としては,鮒田他(2015),今村他(2015),神薗・冨山(2016),竹平他(2015)等の研究が挙げられる.薩摩半島の南部においては,竹平他(2015)によって陸産貝類相の調査が行われたが,南九州市の中部から南部にかけては調査が行われておらず,陸産貝類相を明らかにするには不十分であった.そこで,本研究では先行研究での調査地点の一部を再調査すると共に,地点数を増やし,より詳細な陸産貝類相を明らかにすることを目的とした.また,それぞれの生息地域・地点の環境・微環境と陸産貝類相との関係についても考察した.加えて各調査地域の陸産貝類相の比較のために,Simpsonの多様度指数(Simpson, 1949)の変形版および野村・シンプソン指数(野村,1940)を計算し,類似度デンドログラムを作成して考察した. -
原井美波・冨山清升 . 鹿児島湾桜島袴腰の転石海岸における ムラサキクルマナマコの生活史 . Nature of Kagoshima43 37 - 42 2017年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
鹿児島市桜島の袴腰海岸にはムラサキクルマナマコPolycheira rufenscens(Brandt)が生息しており,このムラサキクルマナマコのサイズ頻度分布と性比の季節変化を2010年12月から2011年12月の一年間追うことによって,鹿児島市桜島袴腰海岸に生息するムラサキクルマナマコの繁殖の起こる時期と,個体の体の大きさと性別の相関関係の有無を明らかにした.
サイズ頻度分布調査は,ムラサキクルマナマコを毎月100匹以上調査地で採集し,体長と体幅を測定してその体積を算出した.頻度分布は一年間どの月でも似た山の形となり,新規加入と推測される個体の山は確認されなかった.
性比については,各月40匹程度の個体を解剖して顕微鏡による生殖巣の観察を行い,卵の確認できたものを雌,卵の確認できなかったものを雄,生殖巣自体が判別できなかったものを判別不能として処理した.各月の性比を比較すると,6月に雌の比率が急激に増加し8月まで雌が存在したが,その他の月では雌は見られなかった.また,生殖巣の発達については4月から8月にかけての期間が顕著であり,それ以外の月では萎縮しほとんどが判別不能であった.
サイズ頻度分布の季節変動については新規加入が見られなかったため,体の小さい成体は生息地が他の個体と異なると提案された.また,季節変動も無かったことから性別と体の大きさには相関関係がないと言える.性比については,4月から8月にかけて生殖巣が発達し,4月から5月にかけて成熟した雄が増加していることから,この雄の一部が性転換することで6月に雌が出現したと考えることが可能である.6月に雌が出現し,9月にはほとんどの個体が放卵・放精を終えたと考えられるため,6月から8月の間が桜島袴腰海岸における本種の繁殖期であると言える. -
染川さおり・冨山清升 . 鹿児島大学理学部林園水槽内における外来種淡水性巻き貝のサカマキガイ(Physa acuta)とインドヒラマキガイ(Indopranorbis exustus)の生活史 . Nature of Kagoshima43 19 - 30 2017年5月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
要旨
鹿児島大学理学部前にある林園の池は,地下水からのくみあげ水が溜まっているために,温度がほぼ1年中一定であるが,冬季の水温は10℃以下になる.池には,外来種である淡水性腹足類貝類であるサカマキガイとインドヒラマキガイが同所的に生育し,1年を通して観察できる.この2種の貝の生活史について調査した.
サカマキガイ(physa acuta)は,サカマキガイ科の貝で淡水産であり,ヨーロッパからの外来種である.生命力が強く,全国から報告があり,分布が拡大傾向にあるといわれる.また,環境の変化に強いことに加え,鋭い歯をもち,主に雑食性であるが,他種軟体動物を摂食することもあるため,同棲在来種を駆遂してしまうとの報告もある.インドヒラマキガイ(Indoplanorbis exustus)はヒラマキガイ科の貝で淡水産であり,東南アジアからの外来種である.また,本種は有肺類に属し雌雌雄同体である.本種は,寒さに弱く繁殖力は強い方ではなく寿命は1年とされている.主に室内の水槽では生育するが,日本においては野外では越冬し得ないとされている.九州からの報告では,最低水温が15度以上の場所では生育するという報告がある.
本種の生活史調査は,月別の定期調査法を用いた.なお,定期調査は,2003年1月~12月に行った.水槽内の表面に浮いている枯葉の裏に付着しているサカマキガイ,インドヒラマキガイ2種を約50個体ピンセットで採集して実験室に持ち帰り,2種の個体をそれぞれ,ノギスと顕微鏡を用いて,0.1mm単位まで測定し,記録した.その記録をもとに,2種の殻幅サイズの頻度分布と季節変動をグラフで示した.
サカマキガイは,過去の研究結果において,産卵の最盛期は夏季で,繁殖力が強く,ほぼ冬季を除いて1年中産卵し,寿命は1年とされている.鹿児島大学林園の池に生育するサカマキガイは,本研究の結果から,産卵の最盛期は夏季で,冬季を除いて1年中産卵していること,寿命は約1年ということがわかった.インドヒラマキガイは,過去の研究結果において,室内の水槽では生育するものの,一般に野外では越冬し得ないが,低温の適応性から将来的には野外で越冬する可能性があり,外来種として注意が必要とされていた.鹿児島大学林園の池に生育するインドヒラマキガイは,本研究において,冬を除き1年中産卵しており,産卵の最盛期は夏季であることがわかった.さらに,越冬し複数年に渡って,生きている個体も存在しているということが明らかになった.従って,過去の研究例と比較すると,インドヒラマキガイは九州では,15度以上の暖かいところでしか生育してないという報告があったが,鹿児島では,低温に適応し,越冬できる個体が出現しているということが判った.今後,この種の分布拡大に関しては,注意が必要だろう. -
国村真希・冨山清升・今村留美子・河野尚美 . マングローブ干潟におけるキヌカツギハマシイノミガイMelampus (Micromelampus) sincaporensic Pfeiffer,1855 とカワザンショウガイ科数種の間での生活史比較 . Nature of Kagoshima43 19 - 30 2017年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
要旨
鹿児島県喜入町の愛宕川河口の干潟には,メヒルギKandelia candelやハマボウHibiscus hamabo からなるマングローブ林が広がっているためフトヘナタリC.rhizophorum A.Adams, 1855やコゲツノブエClypeomorus coralium (Kiener, 1834),ヒメカノコガイC.oualaniensis (Lesson,1831)といったような他の一般の海岸にはあまり見られない巻き貝類が生息している.この干潟の上部には海岸棲のシバ類であるナガミノオニシバZoysia sinica var.nipponicaやハマサジLimonium tetragonum (Thunb.) A.A.Bullockが生育している一帯があり,そこではオカミミガイ科に属するキヌカツギハマシイノミガイMelampus(Micromelampus)sincaporensic Pfeiffer, 1855と,カワザンショウ科の数種が同所的に生息している.キヌカツギハマシイノミガイは三河湾以南の内湾や河口汽水域干潟のヨシ原等にすむ雌雄同体の巻き貝であり,カワザンショウ科は汽水産で高潮帯の草間岩れきに生息する雌雄異体の巻き貝のグループである.キヌカツギハマシイノミガイは研究例が少なく,特に生態は明らかにされていない.本研究ではキヌカツギハマシイノミガイを中心として,殻高サイズ分布の季節変動を明らかにすると同時に鹿児島湾内における生息状況を調査することにより生活史を解明する事を目的とした.
キヌカツギハマシイノミガイとカワザンショウ科の2グループの生活史
愛宕川河口の支流にある干潟の上部で毎月1回大潮または中潮の日の干潮時に行った.キヌカツギハマシイノミガイは20㎝×20㎝のコドラートをランダムに20箇所以上取り,出現個体数を記録し,カワザンショウ科についてはランダムに100個体以上採取したあと実体顕微鏡を用いて同定した.また種別に殻高を0.1㎜単位で測定した.
鹿児島湾におけるキヌカツギハマシイノミガイの分布状況調査
2003年4月から大潮の日の干潮時に一回の調査につき6,7時間かけて行った.鹿児島湾内に流れ込む河川の河口干潟に行き,キヌカツギハマシイノミガイの生息状況を調べた.
キヌカツギハマシイノミガイは幼貝の定着が11月に起こり,次の年の6月ごろまでに8㎜の成貝の集団に加入すると思われる.幼貝のグループは4㎜前後~7㎜前後に変化していることから,1年で3㎜程度成長すると考えられる.また,11㎜を越える個体が存在しないことから,11㎜程度の大きさになると殻の生長が止まるか死亡する個体が多くなると思われる.
カワザンショウガイ科の種は主にクリイロカワザンショウAngustassiminea castanea castanea (Westerlund, 1883)とツブカワザンショウAssiminea (Assiminea) estuarine Habe, 1946が多く,サツマクリイロカワザンショウAngustassiminea castanea satumana (Habe, 1942)とカワザンショウガイAssiminea luteajapaonica v.Martens, 1877はわずかしか採取できなかったため,今回の調査対象にはしなかった.クリイロカワザンショウは幼貝の加入時期が10月であることが確認された.
キヌカツギハマシイノミガイの生息状況は,45地点中,4地点でしか生息を確認することができなかった.この4地点の共通点は,海岸棲植物であるナガミノオニシバが生育しているという点であった.過去の記録と比較すると生息地は明らかに減少していた. -
河野尚美・冨山清升・今村留美子・国村真希 . 鹿児島湾におけるヒメウズラタマキビ Littoraria (Littorinsis) intermedia (Philippi,1846) の生息地による生活史の比較 . Nature of Kagoshima43 9 - 18 2017年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
ヒメウズラタマキビガイLittoraria (Littorinposis) intermedia (Philippi,1846)はタマキビガイ科Littorinidaeに属する雌雄異体の巻き貝である.タマキビガイ科は日本で8属19種が確認されている.ヒメウズラタマキビガイはウズラタマキビガイLittoraria scabra (Linnaeus,1758)の亜種で,フィリピンのネグロス島のJimamalianを模式産地として記載された.ウズラタマキビガイに似るが周縁の角張りが弱く,軸唇は紫色で,縫合の下の螺肋が強いこと,殻頂部でも螺層表面に螺肋が強いことで区別され,紀伊半島以南のインド・西太平洋,潮間帯,マングローブや内湾の岩礁上に生息する.日本では瀬戸内海や有明海などの内湾の岩礁や礫の間などに生息し,乾燥に対して耐久性が強い.本種の基礎生態を解析した報告例はこれまでほとんどなく不明な点が多い.本研究では,鹿児島湾喜入町愛宕川河口干潟及び祗園之州海岸において,ヒメウズラタマキビガイの殻幅サイズ頻度分布の季節変動を明らかにし,生活史を検討することを目的とした.さらに,環境攪乱の異なる2つの調査地での生活史を比較して攪乱の影響を考察し,垂直分布により季節ごとに生息場所がどのように移り変わるのかを明らかにする調査を行った.
調査は鹿児島県揖宿郡喜入町を流れる愛宕川の河口干潟付近と鹿児島県鹿児島市清水町を流れる稲荷川の河口付近で行った.定期調査は2003年1月から2004年1月まで大潮または中潮の日中の干潮前後に,喜入では干潟付近の岩礁やコンクリート護岸の間隙,稲荷川河口では河口付近にある石橋記念公園の玉江橋下の石垣の2箇所で毎月1回行った.それぞれの調査地にいるヒメウズラタマキビガイを100個体以上採取し,ノギスで0.1mmの単位で殻幅を測定し記録した.垂直分布の調査は同期間内の2003年1月,3月,8月,10月,12月の各季節ごとに石橋記念公園で,30cm×30cmの石垣3つを一区画とし,河口面から陸上面に近づくにつれてA,B,C,D,Eの5区画に分け,それぞれに出現した本種の個体数と殻幅サイズを測定し記録した.
定期調査の結果,4月と8月に1.5mm前後の幼貝の新規加入があり,幼貝はその後11.0mm前後に向けて成長を続ける傾向が見られ,2003年1月と2004年1月では,1年間で殻幅サイズ頻度分布のヒストグラムがひと山型からふた山型へと変化している事が分かった.また,喜入・石橋公園の生息環境の異なる2つの調査地において幼貝の新規加入や殻幅サイズ頻度分布で大きな違いが見られた.垂直分布においては,年間を通して個体のサイズは大きくなり成長が見られるが個体数は夏から冬にかけて減少し,生息場所も冬は陸上面から河口面へと移動している事がわかった.
以上のことから,ヒメウズラタマキビガイは1年に幼貝の新規加入が春と秋の2回あり,幼貝はその後11.0mm前後に向けて成長する傾向があるが,年によって新規加入がある年とない年があると考えられる.また,冬の寒さに弱く,潮間帯の生息場所を逃れる移動性があることがわかった.さらに,生息環境の異なる調査地によって生活史に大きな違いが見られた.幼貝の新規加入が全く見られない石橋公園の個体群では,海岸整備に伴う攪乱による影響が非常に大きく,現在のヒメウズラタマキビガイの個体群は個体サイズが大きくなり,年を取っていく傾向にある.今後もこの状況がずっと続くようであれば,ヒメウズラタマキビガイはやがては寿命により消失し,将来は絶滅してしまう危険性がある事が明らかになった. -
吉田健一・冨山清升 . 鹿児島湾におけるウミニナ Batillaria multiformis 集団 のサイズ頻度分布季節変動. Seasonal change of size distribution of shell length of Batillaria multiformis in Kagoshima bey. . Nature of Kagoshima43 1 - 7 2017年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
鹿児島県喜入町を流れる愛宕川の河口干潟には,上流部にメヒルギ(Kandelia candel)やハマボウ(Hibiscus hamabo)からなるマングローブ林が広がっており,その周辺にはウミニナ Batillaria multiformis (Lischke),カワアイ Cerithideopsilla djadjariensis (K.martin),ヘナタリCerithideopsilla cingulata (Gmelin),フトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum (A.Adams)の4種の巻貝が生息している.これまでウミニナについては,発生様式,分布については研究されてきたが,新規加入時期などの生活史についてはあまり研究されていない.本研究ではウミニナの生活史を明らかにする目的の一つとして,より広範囲な地域で調査した.
調査は2002年2月から2003年1月の期間に毎月1回,大潮の日の干潮時にコドラート内の砂泥を集めて,2mmメッシュのふるい内で洗ったものを持ち帰った.計測はサンプルから肉眼で個体を取り出し,種毎に分類し,幼貝は顕微鏡を利用して同定した.ウミニナは殻高をノギスで0.1mm単位で計測して記録した.
その結果,各調査区の間で新規加入の時期に差があることが分かった.上流部から下流部に行くに従って,加入時期が1ヶ月ほど早まっていった.また,殻高サイズ頻度分布においても下流部のほうが上流部に比べ大きいサイズピークを示していた.個体数の季節的変動は,全調査区において,春にピークとなり,夏にかけて減少し再び秋に向けて増加していることが分かった.これは,春には生殖活動のために高密度になるためであり,秋には幼貝と中型個体の増加のためだと考えられる. -
Yusuke Katanoda, Takayuki Nakashima, Shino Ichikawa & Kiyonori Tomiyama . 大隅諸島における汽水及び淡水産貝類の生物地理 . Bulletin of Biogeographical Society of Japan71 41 - 51 2016年12月査読
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Biogeographical Society of Japan
Abstract. The brackish and fresh water snail faunas of eight islands (Kuchinoshima, Yorontô and the Ôsumi islands, consisting of Tanega-shima, Yaku-shima, Kuchierabu-jima, Kuro-shima, Ioo-jima, and Take-shima) and two peninsulas (southern Ôsumi Peninsula and southern Satusma Peninsula) were investigated between 2007 and 2008. Twenty two brackish and fresh water snail species in 12 families were collected. Cluster analyses using Nomura-Simpson’s coefficient suggest the absence of faunal sub-regions in this area, probably because there are few species in this area is small and many species in this area are widely distributed in Kagoshima. In the analyses of the species-area relationship, the value of z (slope of the regression line) for brackish and fresh water snail species was 0.3195, whereas the value of z was lower (0.2847) when marine snail species inhabiting river mouths. The higher z value for the brackish and fresh water species only was considered to be due to their property of oceanic island elements compared with marine species.
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Shino Ichikawa, Takayuki Nakashima, Yusuke Katanoda, Kiyonori Tomiyama, Atsuhiko Yamamoto, & Eiji Suzuki . トカラ列島口之島の陸産貝類相の構成と環境との関係 . Bulletin of Biogeographycal Society of Japan71 53 - 68 2016年12月査読
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Biogeographycal Society of Japan
Abstract. The aim of this study is to clarify the relationship between the compositions of land snail fauna and the environment. We conducted two surveys for this study. In the first survey we collected land snails on Kuchino-shima island from 2008 to 2009, the Tokara Islands, Kagoshima, Japan and classified the investigation points of each islands by the environment (1: forest, 2: coastal forest, 3: pasture, 4: field). In the second survey we placed 19 research plots on Kuchino-shima in November 2008. Land snails were collected and vegetation, coverage of the herbaceous layer and top soil (pH, moisture and exchangeable calcium content) were surveyed for each plot. The species richness of land snails in pastures, coastal forests, and fields were discovered to be low compared to that in the forest from the first survey. There are many pastures on the Tokara Islands, which may strongly influence the diversity of land snails. In the second survey the species richness varied in each plot. There was a significant negative relationship between total number of land snails and the pH of the top soil. However there was not a significant negative relationship between the number of living land snails and the pH of the top soil, but there was a significant negative relationship between the numbers of dead land snails (empty shells) and pH. The shells of land snails are insoluble as the pH lowers. It is possible this result indicated the relationship between shells and pH. There was a significant negative relationship between the species richness and the density of trees. A higher density of trees decreases the light that reaches the forest floor and thus herb density. Because herbs are the habitat of some land snails, the above mentioned relationship might occur
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Harumi Ohtaki, Kiyonori Tomiyama, Eiko Maki, Maya Takeuchi, Tatsujiro Suzuka & Saki Fukudom . Mating behavior of the dioecious snail Cerithidea rhizophorarum A.Adams,1855 ( Gastropoda; Potamididae) in the tidal flat of a mangrove forest . Biogeography18 1 - 10 2016年9月査読
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担当区分:筆頭著者 記述言語:英語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Biogeography Society
Abstract. The mating behavior of the dioecious snail Cerithidea rhizophorarum was observed in the field. Copulation was observed from mid May to mid September, with a peak from late June to late July. Continuation of copulation was confirmed by flag mark, pair was discovered on rounds every 15 minutes. The time pair parted from one another was considered the copulation termination time; both initial and termination times were recorded. Initial times in the daytime had one peak period about two and a half hours before low tide, while nighttime pairs starting copulation were especially frequent over three hours, with low tide occurring in the middle of that period. Copulation frequency in the daytime and nighttime was much the same, but the duration of copulation in the nighttime (mean 51.1minutes) was significantly longer than that in the daytime (26.7minutes). Because there was no significant correlation between shell width between pairs, the mating of C. rhizophorarum was assumed to be random with respect to shell width. Courtship acceptor snails were significantly bigger than initiator snails. By dissection of copulation pairs, 5.45% of the pairs were found to be between individuals having male reproductive organs. The difference in sex ratio between the population on the tidal flat area and on the trees in the summer was significant: the ratio of females in the population on the trees was higher than that on the tidal flat area.
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金田竜祐、冨山清升※ . 陸産巻貝3種における貝殻成長線分析方法の確立 . Nature of Kagoshima 42 361 - 370 2016年6月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
貝類の成長は栄養摂取による軟体部の成長が 先で,貝殻の成長はそれに伴って起こる.貝殻は 硬く計測が容易なこと,成長線により成長の時間 経過記録を保っていることから,これまでにも海 産貝類学(二枚貝類の貝殻成長線分析)や考古学 (遺跡出土貝類の貝殻成長線分析)の観点から貝 殻成長線分析の研究はなされてきた(小池,1986 等).貝殻には様々な成長障害(ディスターバンス) で成長線が記録される.成長の開始点が殻頂,成 長の終了点が殻口・腹縁であり,貝殻に記録され た成長の跡として内部成長は重要視されている. しかし今日まで,陸産巻貝種における貝殻成長線 分析の研究は前例がない. 本 研 究 で は, ヤ マ タ ニ シ(Cyclophorus herklotsi)・ ヤ マ ク ル マ ガ イ(Spirostoma japonicum)・アズキガイ(Pupinella (Pupinopsis) rufa)の3種の陸産巻貝種において,貝殻成長線 分析が行えないかを検討した.主要な研究目的は 陸産巻貝種貝殻成長線分析方法の確立だが,採集 したサンプルは内部成長線・殻高・殻幅を測定し 頻度分布をヒストグラムで表し,散布図で内部成 長線と殻サイズの関係を表した.またこれまでの 陸産巻貝種の研究では,主にサイズを用いて大体 の年齢を推定していたのだが,この推定方法が正 しいのかを内部成長線と殻サイズにおいての相関 の有無で検討した.
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四村優理、冨山清升* . 鹿児島湾の干潟における ウミニナ(Batillaria multiformis)の生活史 . Nature of Kagoshima 42 419 - 428 2016年6月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然介護協会
ウミニナBatillaria multiformis (Lischke) は吸腔 目ウミニナ科に属する腹足類である.発生様式は 紐状の卵鞘を産み,ベリンジャー幼生が孵化する プランクトン発生の生活史をとる.北海道南部か ら九州までの日本各地においてもっともふつうに みられ,主に砂泥や砂礫上に生息している.しか し,本種の生活史については,まだ不明な点が多 い.今回は,メヒルギKandelia candel (L) Druce やハマボウHibiscus hmabo Siebold et Zuccarini か らなるマングローブ林の北限である鹿児島県喜入 町の愛宕川河口干潟と,中礫の転石河岸で,植生 は無くコンクリート護岸に囲まれている鹿児島市 谷山の永田川で調査を行った.本研究では,2つ の異なる環境におけるウミニナのサイズ頻度分布 の季節変化や生息密度を調査して生態学的比較を 行った. 2014 年 12 月~2015 年 11 月の間,毎月1 回, 中潮~大潮の日の干潮時に目視可能なウミニナを ランダムに採集し,殻高と殻径の2か所を,ノギ スを用いて0.1 mm単位で記録した.殻高は殻頂 部が失われていることもあるため殻径のグラフの 方がより正確な数値の変化を示した. その結果,喜入干潟における殻高のサイズ分
布の季節変化は,2014年の12月以外は年間を通 して1.4–2.0 cmをサイズピークとする一山型のグ ラフであった.殻径については,年間を通して 0.4–0.6 cmがサイズピークだったのに対して,7 と8月はサイズピークが下がった.谷山における 殻高のサイズ分布の季節変化は,年間を通して 2.1–2.5 cm がサイズピークだったのに対して11 月と12月はサイズピークが下がった.殻径につ いては,年間を通して0.8–1.1 cmがサイズピーク として多く見られたのに対して,8月には比較的 小さな個体も採集できた.殻高の平均サイズにつ いて,喜入で採集したウミニナの最大値は11 月 の1.65 cmであり,谷山で採集したウミニナの最 大値は10月の2.37 cmであった.殻径の平均サ イズについて,喜入で採集したウミニナの最大値 は11 月の0.69 cmであり,谷山で採集したウミ ニナの最大値は3月の1.01 cmであった.殻高, 殻径どちらにおいても谷山の方が大きかった.個 体数変動については,喜入において2015年の1 月の292個体から急速に個体数を増やし2月の 444個体でピークとなり,そのあとゆるやかに減 少し8月には105個体となった.9月に279個体 と少しだけ増加したがその後も160個体前後と なった.谷山においては,2014年12月がピーク となった.12月以降は,1月から3月にかけて個 体数が増加したが,その後の個体数は著しく減少 し12–28個体の間の値をとるグラフとなった.生 息密度について,年間の5区間の平均出現個体数 は,喜入で最大値92個体,最小値は21個体,谷 山の永田川では最大値4.4個体,最小値は1.2個 体であった.谷山より喜入干潟の方が,最小値と最大値の差が大きく,密度差が大きいということ が分かった. -
藤木健太、冨山清升* . 喜界島における陸産貝類の分布状況 . Nature of Kagoshima 42 405 - 418 2016年6月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
奄美群島に属する喜界島は,キカイオオシマ マイマイなどの固有の陸産貝類が生息しているこ とが明らかにされており,鹿児島県内の陸産貝類 の分布状況を把握する上では欠かすことのできな い,大変重要な場所であるが,近年は畑地や道路 の開発により,それらの生息環境の減少と悪化が 進んでいることが,石田ほか(2004)によって示 唆されている.本研究は,喜界島での陸産貝類の 採集調査を5月と9月の2回にわたって行い,採 集された種数と生息場所の傾向を考察することに よって,現在の喜界島における陸産貝類の生息状 況を明らかにすることを目的とした.調査は,1 回目を2015年5月5–7日の間,2回目を2015年 9月29–30日の間に,喜界島内に定めた7つの地 点で陸産貝類の採集を行った.大型~小型の個体 は見つけ取りで採集し,微小種は,それぞれの地 点から約1Lの土壌を持ち帰り,研究室内で乾燥 させ、ふるいにかけたものを顕微鏡で観察し,ピ ンセットを用いて取り出しガラス管中に保存し た.見つけ取りで採集したものは,煮沸して肉抜 きをした後,エタノール中に保存した.得られた サンプルのデータを基に,二つの地点同士におけ る類似度を算出した.類似度を求めるにあたり,野村・Simpson指数を用いた.また,算出された 類似度からMountford法を用いて,類似デンドロ グラムを作成した.結果として16種の陸産貝類 が採集されたが,そのうち10種が土壌中から採 集された微小貝であった.今回の調査では,森林 が残っている地点に多くの種数の陸産貝類が産す る傾向が見られ,喜界島の陸産貝類の多くが,森 林環境に依存し,それらの減少や分断が個体数の 減少に繋がっている可能性が高いと推測された.
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菊池陽子、武内麻矢、冨山清升* . 北限のマングローブ林周辺干潟における ヒメカノコガイClithon oualaniensisのサイズ分布 . Nature of Kagoshima 42 397 - 404 2016年6月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
鹿児島県喜入町の愛宕川河口の干潟には,メ ヒルギKandelia candel やハマボウHibiscus hamaboからなるマングローブ林が広がっており, アマオブネガイ科に属するヒメカノコガイ Clithon (Pictoneritina) oualaniensis (Lesson, 1831)が 生息している.ヒメカノコガイは房総半島以南の 河口泥上に生息している雌雄異体の巻貝である. 本種は研究例が少なく,特に生態は明らかにされ ていない.本研究ではヒメカノコガイの分布の季 節変動を明らかにすることによって,生活史を解 明することを目的とした. 調査は愛宕川河口の支流にある干潟で毎月1 回大潮または中潮の日の干潮時に行った.3つの 調査区を約60 m間隔で設定し,各調査区におい て10 × 10 cmのコドラートをランダムに5か所置 き,出現個体数を記録した.またヒメカノコガイ の殻幅を0.1 mm単位で測定した. その結果,下流域の出現個体数は他の調査区 と比べてかなり少ない事がわかった.上流域と中 流域では春に個体数が減少し,秋に個体数が増加 するという傾向が見られた. 殻幅頻度分布は各調査区の間で差は見られな かった.夏は殻幅5.0–6.0 mm前後の個体がほとんどだが,秋,冬は3.0 mm 前後と7.0 mm 前後 の個体を中心に構成されていた.出現個体数とあ わせて考えると,秋に3.0 mm前後の幼貝の新規 加入が起きているものと思われる.また,7.0 mm 前後の個体は月を追うごとに減少していることか ら,6.0 mm程の大きさになると死亡する個体が 多くなり,冬を越せる個体はわずかであると思わ れる.このことからほとんどのヒメカノコガイの 寿命は1年であることが判った.
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福島聡馬、冨山清升* . 鹿児島県薩摩半島南部における淡水産貝類の分布 . Nature of Kagoshima 42 383 - 395 2016年6月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
要旨
鹿児島県は南北600kmにも及ぶ広大な県土を有し,緑豊かな森林や美しい海岸線,多様な野生動植物など美しく豊かな自然に恵まれている。その中で,淡水産貝類の絶滅危惧種や移入種などの鹿児島県内での詳しい分布は知られていない。本研究は,淡水産貝類に焦点を当てて薩摩半島南部での分布調査を行った。
2015年1月から11月まで,薩摩半島南部を中心に,26地点において淡水産貝類を採集した。調査地へは自動車で赴き,河川や用水路,水田を中心に採集を行った。採集は主に見つけ取り採集法を用いた。また,底の砂泥や草木を採集ビニル袋に詰め,研究室へ持ち帰り,トレーに広げて,ソーティングにより,小型の貝を採集した。生きている貝は茹でて,肉抜きした。軟体部は100%エタノールに溶液標本として保存した。殻は同定した後,ビニル袋に入れて保存した。以上の作業終了後,類似度やデンドログラムを作成し,データ解析を行った。
26地点の調査の結果,計8科10属10種,216個体の貝類を採集した。各調査地点において,種数をみると,南九州市の永里川の用水路で最も多い5種を確認した。採集された種のうち,環境省カテゴリーの準絶滅危惧種は1種,鹿児島県カテゴリーの準絶滅危惧種は5種,外来種は3種であった。
今回,県域準絶滅危惧種のタケノコカワニナ・フネアマガイ・モノアラガイ・ドブガイの4種は1カ所のみでしか採集できなかった。タケノコカワニナ・フネアマガイの2種については,本来汽水域に生息する種のためほとんど採集できなかったと考えられる。モノアラガイ・ドブガイについては,Pt Z 鰻池のみで採集することができた。この2種は環境の変化に弱いため,鰻池では生存できる環境が整っていると考えられる。
外来種については,サカマキガイ・スクミリンゴガイ・タイリクシジミの3種が採集された。本調査より,サカマキガイについては南九州市の南側にはほとんど侵入していないと考えられる。また,スクミリンゴガイについては指宿,南九州市の南側,鹿児島市の南側にはほとんど侵入していないと考えられる。 -
神薗耕輔、冨山清升* . 鹿児島県の姶良・霧島地方における陸産貝類の分布 . Nature of Kagoshima 42 371 - 382 2016年6月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然愛護協会
陸産貝類はほかの動物群に比べて移動能力が 極端に低いため,地域的な種分化が多い. 鹿児島県の離島では陸産,海産貝類の調査が 比較的行われているが,鹿児島県本土はほとんど 調査が行われていない.そこで本研究では鹿児島 県中央北部に焦点を当てて,陸産貝類の分布調査 を行った. 本調査は鹿児島県中央北部の姶良市および霧 島市の計13地点にて陸産貝類の採取を行った. 採取は主に神社付近や社寺林の雑木林を中心に 行った.採取方法は落ち葉の下や土壌表面,樹上 を中心に見つけ取りを行った.また微小貝を採取 するために調査地点の落ち葉を含む土壌を500 ml ほど持ち帰った.また,サンプルから得られたデー タについて,種名リストを作成し,各地点の類似 度を求めた.今回は共通種数による指数である, 野村・シンプソン指数を用いた. 13 地点の調査の結果,計10 科 21 属 25 種, 254個体の陸産貝類を採取した.13地点のうち最 も多くの種数がみられたのは姶良市平松岩剣神社 の11 種であった.このうちの6種が土壌をふる いにかけて見つかった微小貝であった.最も少な いのは霧島市霧島永水北永野田駅で一種だった. 個体数についても最も多いのは姶良市平松岩剣神
社で,50個体が採取された.また,このうち33 個体が土壌をふるいにかけて見つかった微小貝で あった.最も少なかった地点も霧島市霧島永水北 永野田駅の1個体であった. 今回の調査で採取地点,採取数ともに多かっ たアズキガイ,ヤマクルマガイ,アツブタガイは 鹿児島県中央北部での普通種であるといえる.逆 に,一地点でのみ確認できた種はベッコウマイマ イ科が多く,これらは分布域が連続していないと 考えられる. 今回の調査で個体数が多かった地点は近くに 民家や畑があったり,参拝客が多い神社であった りと人の手が加えられている場所が多かった.こ のことは,「かたつむりの世界」(川名,2007: 14) でも神社仏閣の林叢が陸産貝類が好む生息地の一 つであると述べられている.以前行われた鹿児島 県本土(北薩地方,薩摩半島南部,鹿児島市街地 域)での分布調査(今村ほか,2015)でも同様に 人の手が加えられたり,民家が近くにあったりす る地点で多くの陸産貝類が見つけられたとあっ た.しかし,人の手があまり加えられていない, 採取数が少ない地点でのみ見つけられている種も あり,必ずしもすべての陸産貝類に当てはまると は言えないだろう.また,周辺に民家や畑が多かっ た霧島市の北永野田駅周辺は一個体しか採取でき ず,土壌などほかの要因による制限が考えられる. 類似度については比較的距離の近い,鹿児島 神宮と蛭子神社で大きな違いがみられた.この原 因としては,陸産貝類の移動能力の低さと,樹木 の数や陰の数の違いによって環境が異なっている ことが考えられる. 今後の課題はより細かなサンプリングを行い,各地点間での採取にかける時間などを統一し,正 確なデータを得る必要性がある.また,採取地点 の土壌や,植生などの環境的な要因についても合 わせて調査していくことも必要となるだろう.