論文 - 冨山 清升
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武内麻矢・菊池陽子・武内有加・冨山清升※ ※:責任著者 . 鹿児島県喜入干潟におけるフトヘナタリCerithidea rhizophorarumの繁殖行動及びウミニナ類の鹿児島における分布 . Nature of Kagoshima48 ( 1 ) 161 - 175 2022年1月
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担当区分:責任著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島県自然環境保全協会
要旨
フトヘナタリは、東北地方以南、西太平洋各地に分布するフトヘナタリ科に属する雌雄異体の巻貝であり、アシ原やマングローブ林の干潟泥上に生息している。鹿児島市喜入町を流れる愛宕川の河口干潟にはメヒルギやハマボウからなるマングローブ林がひろがっており、河口域の干潟ではフトヘナタリの繁殖行動や木登り行動が観察されている。本研究では愛宕川河口干潟において、フトヘナタリの生活史と繁殖行動、木登り行動について調査した。
まず、河口干潟に置いて汀線に直交し約60m離れた調査Stationを3ケ所設定した。毎月各Stationにおいてフトヘナタリをランダムに採集し、出現固体数とサイズを記録した。その結果から、新規加入はみられないことがわかった。
本研究において、交尾行動観察を2002年の7月と8月に行った。交尾行動の観察は15分おきに調査区を巡回し、交尾ペアを発見すると近くに旗マークを立てて交尾の継続を確認した。ペアが離れた時点で交尾が終了したものとみなし交尾開始時刻、終了時刻、継続時間を記録した。
交尾頻度は昼間では、最干潮時の約1時間~2時間半前にピークがあり、夜間では最干潮時刻をはさんで2時間の間に多く見られたが、雨が降ると殆ど交尾が見られなくなった。
木登り行動は、調査区内のメヒルギのみが生息する区域100㎡を調査区内とし、区域内にあるメヒルギに付着しているフトヘナタリの個体数を記録し、地表面にいる個体数の変動と比較することで行った。また夏期と冬期にどのような日周活動があるのか調べるために、1時間毎の個体数の変動を記録した。
その結果、本調査区域においてフトヘナタリは春先から夏期にかけて干潟上に多く、夏期は木登りの日周活動が盛んなのに対し、冬期では殆ど日周活動が見られないという結果が得られた。 -
神薗耕輔・冨山清升・福島聡馬・村永 蓮 . 殻形比較に基づく鹿児島県本土に生息するギュリキギセルの種内変異 . 日本生物地理学会会報75 ( 1 ) 40 - 47 2021年12月招待 査読
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:日本生物地理学会
(要約)
日本列島には多くの陸産貝類が生息している.陸産貝類は他の動物に比べ,移動力が低く,多く
の隔絶された地域で隔離が起こり,固有種が多数存在している.このことから,陸産貝類は生物地
理学の研究においては重要な動物群であるといえる.陸産貝類の分類は主に殻形態に基づきおこな
われている.しかし,殻形態は生息地の環境に左右されやすく,近年の研究では DNA の塩基配列
による分子系統解析による分類もなされてきている.一部の陸産貝類の種内変異の研究では分子系
統解析のみで種内変異を推定することの危うさが示唆されている.このように陸産貝類の系統を検
討する際には,形態,分子の両方の視点から調査していく必要がある.本研究では鹿児島県本土に
生息する陸産貝類の一つであるギュリキギセルについて殻形態による種内変異を検討した.殻の計
測は,Kameda 式,Urabe 式,Tomiyama 式の三つの計測法を用いた.さらに類似距離をユークリッ
ド距離とマハラノビス距離の 2 種類を用いて,デンドログラムを作成し,計測法と類似距離につい
ての比較を行った.サンプルの採取は 2016 年 7 月から 2017 年 9 月の間で,計 310 個体採取し,殻
口が肥厚反転していない幼貝や破損の激しい殻を除いた 261 個体の殻を研究に用いた.採集地は鹿
児島市,姶良市,南九州市,南さつま市,指宿市,日置市,いちき串木野市,阿久根市,鹿屋市,
南大隅町である.3 つの計測方法それぞれで,地点ごとの個体群間の類似度をユークリッド距離と
マハラノビス距離でそれぞれ算出し,その算出した距離をもとにクラスター分析を行った.クラス
ター分析にはいくつかの手法があるが,本研究では群平均法を用いた.クラスター分析の結果,導
き出されるデンドログラムは,6 通り算出した(3 計測法× 2 種類の距離).3つの計測法と 2 つの
距離からデンドログラムを作成したが,変形 Tomiyama 式計測法に基づくマハラノビス距離のデ
ンドログラムは変数が多く,作成することができなかった.そのため,計 5 個のデンドログラムが
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* 連絡先 (Corresponding author): k2490509@kadai.jp
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Biogeography of land snail
作成された.マハラノビス距離によるデンドログラムでは,薩摩半島北部でまとまったグループが
作られた.Urabe 式のユークリッド距離によるデンドログラムでは鹿児島市と姶良市でまとまった
グループが作られた.これらは遺伝的類似に基づいた,殻形態の個体群間変異の類似性がある可能
性がある.しかし,デンドログラム全体を見てみると,多くが地理的距離を反映しているとは言え
なかった.これらのことから,ギュリキギセルの殻形質は遺伝的変異よりも環境による変異を反映
していると考えられた.
はじめに
日本列島は年間降水量が多く,複雑な地勢と豊富
な植物相を持っている.そのため多くの陸産貝類が
生息している(東正雄,1982).陸産貝類は他の動
物に比べ,移動力が低い.それによって,多くの離
島で隔離が起こり,固有種が多数存在している.こ
のことから,陸産貝類は生物地理学の研究において
は重要な動物群であるといえる.
陸産貝類の分類は主に殻形態でなされてきた.し
かし,殻形態は生息地の環境に左右されやすい.そ
こで,近年の研究では DNA の塩基配列による分子
系統解析による分類もなされてきている.例えば,
中島(2009)ではチャイロマイマイの殻形態による
地理的分布と CO1 ハプロタイプの地理的分布が一
致していないことが報告され,殻の形態のみに基づ
く分類のリスクを唱えている.ただし,Katanoda et.
al(2020)のカワニナ類の種内変異の研究では分子
系統解析のみで種内変異を推定することの危うさが
示唆されている.このように陸産・淡水産貝類の系
統を検討する時には,形態,分子の両方の視点から
調査していく必要がある.
鹿児島県では,さまざまな陸産貝類種内変異の
研究が行われてきたが,離島に生息するものにつ
いての事例 -
福島聡馬・冨山清升・神薗耕輔・村永 蓮 . 鹿児島県における淡水産巻貝カワニナ ( Semisulcospira (Semisulcospira) libertina (Gould, 1859)) (吸腔目;カワニナ科)の殼の形態に基づく個体群間変異の分析 . 日本生物地理学会会報75 ( 1 ) 17 - 24 2021年12月招待 査読
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担当区分:責任著者 記述言語:日本語 出版者・発行元:日本生物地理学会
要約)
淡水産貝類であるカワニナ Semisulcospira (Semisulcospira) libertina (Gould, 1859) は移動性に乏し
く,また,水系を超えて移動できないため,局所的な地域での進化・種分化が起きやすい.カワニ
ナはカワニナ科 Pleuroceridae に属し,Semisulcospira libertina として記載された.本種は全国に広
く分布する普通種の淡水産貝類である.本研究では,鹿児島県内の河川におけるカワニナの殻形
態を比較し,種内変異を殻形態に基づいて明らかにすることを目的とした.また,3 つの計測方法
と 2 つのクラスター分析を用いて殻形態を比較することで,結果にどの程度の差異が生じるのかを
明らかにすることも目的とした.2016 年 8 月から 2017 年 10 月にかけて採集した標本を使用した.
カワニナは 15 河川において,それぞれ 28 ~ 40 個体ずつ合計 494 個体採集した.また,比較のた
め,4 河川から採集した別種のタケノコカワニナも分析に加えた.殻形質の測定は,Urabe 式,変
形 Kameda 式,および,変形 Tomiyama 式の 3 通りの手法を用いた.以上の方法で計測した変数
の平均値と重心値をそれぞれ地点ごとに算出し,マハラノビス距離とユークリッド距離で各個体群
間の殻形態に基づく類似距離をクラスター分析の多変量解析で求めた.Urabe 式計測に基づくユー
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福島聡馬・冨山清升・神薗耕輔・村永 蓮
はじめに
純淡水棲種である淡水産貝類は移動性に乏しく,
環境が変動しても水系を超えて移動できない(増
田・内山,2004).つまり,個体群間の遺伝子交流
が極めて少ない動物群であるため局所的な特殊化が
起こりやすく,種内変異の研究に向いている動物群
だといえる(Uabe, 1993).貝類の種内変異を調べ
るために近年では,殻形態や生殖器形態などの比較
の研究やミトコンドリア DNA による種内変異の研
究等が行われている(Katanoda et.al, 2020).今回は
殻形態の比較に基づき研究を行った.殻形質分析の
方法は,これまでの研究では独自の手法で結果を出
している場合が多いが,今回は近年の標準化された
方法に基づいて殻形態の比較が行われる事例が多い
(Tomiyama, 2018).
カワニナ Semisulcospira (Semisulcospira) libertina
(Gould, 1859) は全国の川や水路などに棲息する淡水
巻貝の代表的な種である(増田・内山,2004).カ
ワニナの殻形態の研究として同一河川におけるカワ
ニナ 2 種の判別と形態比較(Urabe,1993)やびわ湖
産イボカワニナ類 3 種の研究(渡辺,1970,1980)
など同一水系の比較研究が多くなされている一方,
河川ごとのカワニナの形態比較を行った研究は少な
く,鹿児島県河川においてカワニナの殻形態の研究
は行われていない.
本研究では,鹿児島県内の河川におけるカワニナ
の殻形態を比較し,本種における鹿児島県内での種
内変異を殻形態に基づいて明らかにすることを目的
とした.また,本種の生態的地位と本研究の信憑
性を高めるために,宮崎県大淀川のカワニナ,近
縁種であるタケノコカワニナ Stenomelania rufescens
(Martens);Thiaridae を比較対象として使用した.殻
形態は Urabe 式・変形 Kameda 式・変形 Tomiyama
式の 3 つの方法を用いて計測し,クラスター分析の
ユークリッド距離とマハラノビス距離の 2 つの方法
を用いて比較した.3 つの計測方法については近年
標準化されたものを使用しており,本種において結
果にどの程度の差異が生じるのかを明らかにするこ
とも目的とした.
材料と方法
1.材料
本研究では 2016 年 8 月から 2017 年 10 月にかけ
て筆者が採集した標本を使用した.カワニナの標本
は 15 河川で採集(Fig. 1)し,それぞれ 28 ~ 40 個
クリッド距離の愛宕川と田貫川の集団・甲突川と永田川の集団,変形 Tomiyama 式計測に基づく
ユークリッド距離の愛宕川と田貫川の集団,変形 Tomiyama 式計測に基づくマハラノビス距離の
菱田川と肝属川の集団において地理的にまとまったクラスターが見られた.また,タケノコカワニ
ナや大淀川の集団は他の集団とクラスターが混ざる結果となった.Urabe 式計測に基づくユーク
リッド距離・変形 Tomiyama 式計測に基づくユークリッド距離の愛宕川・田貫川の集団,Urabe
式計測に基づくユークリッド距離・変形 Kameda 式計測に基づくユークリッド距離の八房川・菱
田川の集団, Urabe 式計測に基づくマハラノビス距離・変形 Kameda 式計測に基づくマハラノビ
ス距離の甲突川・川内川の集団のクラスターは似た結果を示した.地理的にまとまったクラスター
を作ったのは 4 組で,地理的に近い集団が必ずしも形態的に類似性が高いとはいえないことが判明
した.デンドログラム同士の比較ではクラスターがまとまった部分もあったが,殻の計測部位や距
離の算出方法が異なると結果が大きく変わることが分かった.また,地理的な距離と相関が少な
く,どの手法が優れているか評価することは出来なかった.カワニナのような殻頂がない貝類では,
Kameda 式や Tomiyama 式のように殻頂を含む計測方法は適していないと考えられる.今回の計
測方法においてタケノコカワニナの集団はカワニナの集団とは区別が出来ない結果となった.カワ
ニナ類の殻形態は酷似しているため,別種や亜種であっても成貝の殻形態によって分けることは難
しいと考えられる. -
宮里優斗・冨山清升 . 鹿児島市内神社の社寺林における陸産貝類尾の分布 . Nature of Kagoshima47 ( 1 ) 381 - 389 2021年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
鹿児島県鹿児島市内神社における陸産貝類の分布
多様性生物学講座 宮里 優斗 (指導教諭:冨山清升)
1.はじめに
本研究では鹿児島県鹿児島市内の神社に焦点を当て、陸産貝類が生息していると考えられる自然林ができるだけ残った神社を12地点選択し、その分布調査を行った。また、調査結果をもとに、各地点の環境と種の関係や類似度、採取された種の希少性を考察した。
2.材料と方法
鹿児島市内の自然林が残った12ヶ所の神社を調査した。各地点、約1時間見つけ取りと周辺の表層土を約500mL採取した。持ち帰った生貝は肉抜き処理後、アルコール中に保存し、双眼実体顕微鏡を用いて、表層土に生息する微小貝を採取した。これらのサンプルを水で洗浄後、乾燥機で1週間乾燥させた後に同定作業をした。サンプルはチャック付きのポリ袋に分けて保存した。各地点間の類似度を明らかにするため、類似度指数から群分析法を用いてデンドログラムの作製、および絶滅・消滅が懸念される種についても注目し、各地点の希少種保有率を点数化し、分析を行った。
3.結果
鹿児島市街地の神社12地点の調査の結果、計2目11科22属23種1105個体が採取することができた。個体数に注目すると、多賀神社177個体、南洲神社149個体、正一位稲荷大明神144個体を確認することができた。種数に注目すると、鎮守神社12種、南方神社11種、鳥帽子嶽神社と南洲神社で10種を確認することができた。希少度評価の点数表から、最も点数が高かった地点は正一稲荷大明神で254点であった。
4.考察
鹿児島県鹿児島市内の自然林が残った神社では、アズキガイとアツブタガイの採取個体数と採取地点数が多いことから、優占種であると考えられる。
大山祇神社では希少度評価の「絶滅危惧Ⅰ類」と「準消滅危惧」に該当する種が、採取できた種数に対し多かった。その中でも、レンズガイ、タワラガイ、ヒメベッコウは良好な林や林床にしか生息できないため、大山祇神社は他の地点と比べ、比較的良好な環境が整っていると考えられる。よって、人の手が加わっていない地点ほど森林はある程度自然な状態が保たれるため、希少な種や多くの種が安定して生息できるのではないかと考えられる。また、正一稲荷大明神ではギュリキギセル、南洲神社ではヤマタニシの個体群が確認できた。この2種は、都市近郊にも生息しているが都市開発とともに、年々消滅している個体群が非常に多いため、鹿児島市内においては数少ない個体群の1つではないかと考えられる。 -
藤田めぐみ・内田里那・冨山清升 . 鹿児島湾河口・干潟における巻貝相の調査 . Nature of Kagoshima47 ( 1 ) 237 - 244 2021年5月
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担当区分:責任著者 記述言語:日本語 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
鹿児島県に分布する軟体動物(貝類)の総種数は,非常におおざっぱな概算でも4,000種を超えると言われており(行田2000),陸産・淡水汽水産の軟体動物に限っても,少なくとも1,000種以上の種が生息していると推定される.(鹿児島県レッドデータ 2003)しかし淡水域や汽水域の調査が十分でないこともあって,どれだけの種数の陸産・淡水汽水産貝類が鹿児島県に分布しているのかその実態は不明な部分が多い.鹿児島湾内の河口・干潟における巻貝相の研究はこれまで行われてきたが(藤田 2009),鹿児島湾外の河口・干潟における巻貝相の研究は行われてこなかった.そのため本研究では鹿児島湾内と鹿児島湾外の巻貝相の一端を明らかにするために分布の生息状況調査を行った.さらに今回の調査により,多くの調査地から生息が確認された種に関してはその生息状況を詳しく記載した.特にウミニナ,フトヘナタリについては干潟の標徴種であることから種の生息状況を地図上にプロットした.さらにウミニナ(Batillaria multiformis)に関しては殻高と殻幅を測定し,鹿児島湾内の個体と鹿児島湾外の個体で殻の殻高と殻幅の比率にどのような違いがあるか多重比較検定(Shceffe法)により殻の比較を行った.これにより,本研究では鹿児島湾内と鹿児島湾外における巻貝の分布状況の一端を明らかにするとともに,ウミニナの形態に関して,鹿児島湾内と外洋に面した鹿児島湾外で差があるのかどうか検討した.調査地の選定は「鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物 鹿児島県レッドデータブック」(2003)において鹿児島県の重要な干潟として記載されている河口域,海岸を参考にした.調査では2010年3月から11月にかけて大潮の干潮時刻に採集を行った.調査方法は調査地の干潟,河口域,海岸にて見つけ取りで,なるべく多くの種の巻貝を採集するようにした.形態比較を行うウミニナに関してはなるべく個体数が多くなるように採集した.採集した個体は研究室内に持ち帰り,同定を行った.ウミニナに関してはノギスを用いて殻高と殻幅を0.1mmまで計測し,記録した.その結果,鹿児島湾内外合わせて4目10科19種が採集された.そして河川毎の種の生息状況から,ヘナタリ,カワアイなどの比較的環境劣化に弱いとされている種の生息地は減少してきていることが分かった.鹿児島湾内外においてウミニナの生息を広く確認することはできたが,それに比べてフトヘナタリの生息地は少なかった.フトヘナタリはウミニナに比べて環境の劣化への耐性が弱いことからフトヘナタリの生息地を失わせるほど汽水環境が悪化している可能性がある.ウミニナの殻の形態比較では今回の結果からは,鹿児島湾内と鹿児島湾外で殻の形態に違いは見られなかった.しかし,思川と本城川の個体間で殻の形態で有意な差があった.本研究ではこの殻形態の違いの原因を明らかにすることはできなかったが,思川と本城川の生息地において栄養条件が異なり,それが殻の形に影響している可能性が考えられる.今後の課題として,生息地の水質や栄養量,底質などの違い殻の形の成長にどのような影響を及ぼすか調査研究が必要であろう.
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内田里那・藤田めぐみ・冨山清升 . 鹿児島湾河口・干潟における二枚貝相の調査 . Nature of Kagoshima47 ( 1 ) 249 - 262 2021年5月
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担当区分:責任著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
鹿児島湾に流入する河川は,全部で76本存在する.その流入河川における貝類相の調査は,これまでほとんど行われていない.そのため,本研究では,同研究室所属の藤田めぐみさんと共同で,鹿児島湾に流入する30本の河川の河口・干潟の貝類相の調査を行った.藤田めぐみさんは巻貝類の動物相を研究し,本研究は,二枚貝類の動物相の研究を行った.本研究の目的として,鹿児島湾に流入する76本の河川のうち30本の河川の河口・干潟の二枚貝類の動物相を明確にすることを目的とした.また,採集種について,鹿児島県レッドデータブック,環境省レッドデータ,及びWWF Japan Science Report Vol.3(以下WWF Japan Sci.Rep.Vol.3と略す.)のカテゴリーを用いて評価し,調査地30河川の河口・干潟における絶滅危惧種の生息状況を明確にすることを目的とした.調査は,鹿児島湾の湾口部から湾奥部にかけて位置する30河川の河口・干潟の貝類相を,2008年12月から2009年の11月の間に単発調査を行った.一河川につき約2時間,見つけ取りによって出来るだけ多くの種を同定に必要最小限の数だけ採集した.採集したサンプルは実験室に持ち帰り,冷凍し,後に乾燥機で乾燥した.乾燥後,肉抜きし,同定した.調査の結果,鹿児島湾に流入する30河川において,死殻を含め,22科37種を確認した.37種のうち,鹿児島県レッドデータの準絶滅危惧種と分布特性上重要種に該当する種が各1種,環境省レッドデータの準絶滅危惧種(NT)に該当する種が3種,WWF Japan Sci.Rep.Vol.3の危険種に該当する種が7種であった.本研究で採集された種のうち,オチバガイ,ハザクラガイ,クチバガイは,1996年のWWF Japan Sci.Rep.Vol.3において危険と評価されているが,調査地30河川においては,広い分布と高い産出を示した.このことから,鹿児島湾流入河川の河口・干潟は,全国的に減少傾向にある種にとって貴重な生息場所であるといえる.また,調査地30河川の二枚貝類の動物相の類似性についてクラスター分析を行い,群間平均法を用いてデンドログラムを作成した.その結果,小河川である清滝川が,明らかに他の29河川と異なるグループになった.清滝川で出現が確認された種は,全て岩などに付着もしくは固着する二枚貝であった.これは,清滝川のみ籠石護岸が設置されており,岩に付着もしくは固着する二枚貝が豊富になったためだと考えられる.本研究結果は,今後,調査地30河川における希少種含む二枚貝の出現状況の把握に役立つであろう.また,河川の河口・干潟は,人の手が加わりやすく,環境変化が起こりやすい.よって,汽水域の生物多様性保全のための基本的なデータとなると期待される.
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轟木直人・冨山清升 . 鹿児島市松元町の二次林における陸産貝類の定性的調査 . Nature of Kagoshima47 ( 1 ) 223 - 230 2021年5月
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担当区分:責任著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
2次林とは,人の手によって管理された人工林(スギやヒノキなど)などの自然を指す.松元町は鹿児島市から西に10kmほどのところにあり,鹿児島市の近郊でありながらもそのような二次的な自然が多く残っている場所である.しかし,この二次的な自然が多く残っている松元町においても陸産貝類の調査はほとんどされておらず記録もない.それゆえ,松元町は現在どのような種が分布していて,移入種などの介入の有無なども調査されていないので,松元町の調査は現在の鹿児島の2次林の状態を知るには重要であると考えられる.そこで本研究では,松元町を対象地域として陸産貝類の定性的調査を行った.採集の方法は,松元町内を移動しながら陸産貝類の生息していそうなところをみつけては,草の根元や落ち葉の下,樹木の表皮などを目視によって貝を探した.本研究では,淡水の貝類は対象としなかった.採集位置はGPSで経緯度を記録した.次に,採集位置(st.)を自然林(照葉樹林),人工林(杉林・竹林),草地の三つに区分にわけ記録した.採集した陸産貝類は熱湯で殺し中の身を取り出して乾燥させ標本にした.その後,松元町で調査をしたst.ナンバー・採集位置の経緯度を入力した.以上の示した手順に従い,それぞれのステーションごとに陸産貝類各種の採れた経緯度,区分を検討した.その結果,ヤマクルマガイ,ヤマタニシ,アツブタガイ,テラマチベッコウ,オトメマイマイダコスタマイマイ,ウスカワマイマイ,コハクオナジマイマイ,アズキガイオカモノアラガイ,オカチョウジガイ,トクサオカチョウジガイ,ソメワケダワラガイタカチホマイマイ,ケマイマイ亜属,サカマキガイ 以上16種の陸産貝類が採取された.オトメマイマイとケマイマイに関しては,オトメマイマイ,ケマイマイの仲間であってオトメマイマイ,ケマイマイとは断定できない.採取できた陸産貝類の分布の特徴は以下のようになった.自然林域:タカチホマイマイ;人工林域:ヤマクルマガイ,アツブタガイ,ダコスタマイマイ,テラマチベッコウ;ケマイマイ,オカモノアラガイ,オトメマイマイの仲間,サカマキガイ;草地域:コハクオナジマイマイ,ウスカワマイマイ,アズキガイ,オカチョウジガイ;ソメワケダワラガイ,トクサオカチョウジ;広域分布:ヤマタニシ.
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當山真澄・冨山清升 . 桜島大正熔岩転石海岸におけるシマベッコウバイの ω 指数を用いた同所的共存の生態学的分析 . Nature of Kagoshima47 ( 1 ) 263 - 274 2021年5月
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担当区分:責任著者 記述言語:日本語 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
鹿児島市桜島町の袴腰海岸には,シマベッコウバイJapeuthria clngulata (Reeve) という肉食性の巻貝が生息している.そのシマベッコウバイのサイズ頻度分布,生息密度の季節変化を追うことによって,シマベッコウバイの生活史と垂直分布を調査した.また,季節ごとにシマベッコウバイとイシダタミガイMonodonta labio confusa,カヤノミカニモリとの間の種間関係調査も行った.毎月行ったサイズ頻度分布調査では,シマベッコウバイを手捕りで50個体以上採集し,殻高を測定した.この調査では,殻頂が欠けているものを除いて測定したため,1,2月は50個体未満になった.この調査の結果,4月頃に2006年末から2007年初めに加入したと推測される新規個体の成長の山が確認できた.季節に1回行った生息密度調査では,シマベッコウバイの垂直分布を調査するために, 春(5月)・夏(8月)は潮間帯の中・上部,中・下部,秋(10月)・冬(12月)は中・上部,中・下部,下部にそれぞれ5ヶ所50X50 c mのコドラートを設置して,コドラート内のシマベッコウバイの個体数と殻高を測定した.その結果,ほとんどのシマベッコウバイは潮間帯の中・下部,下部に生息し,特に下部に多く見られた.これは,乾燥からの逃避,または,餌の獲得がその-因だと考えられる.潮間帯の中・下部で下部より小さな個体が存在するという結果が出たが,稚貝の生息域が下部に限定されているという鎌田 (2000), 鎌田他(2001,2002)の報告から,新規個体が中・下部に定着しているとは考えにくい. また,今回の調査では,鎌田が稚貝としている殻幅3mm (殻高5.6mm) 以下の個体は見つけることができなかった.殻幅3mm≒殻高5.6mmというのは,鎌田(2000)の殻幅と殻高長の関係から求めた.季節に1回,生息密度調査と同時に行った種間関係調査では,シマベッコウバイシダタミガイ,シマベッコウバイカヤノミカニモリ間の種間関係をω指数に基づいて調査した.春・夏は計10ヶ所,秋・冬は計15ヶ所に50×50cmのコドラートを設置し,コドラート内のシマベッコウバイ,イシダタミガイ,カヤノミカニモリの個体数を記録し,それを用いてω指数(Iwao,1977)を算出した.この結果,シマベッコウバイシダタミガイ間では,1年を通して排他的な関係は示さなかった.これは,シマベッコウバイが肉食性,イシダタミガイが藻食性という食性の違いがその-因だと考えられる.-方で,シマベッコウバイカヤノミカニモリ間では,秋に排他的な関係を示した.これは,シマベッコウバイ,カヤノミカニモリの2種が互いに肉食性というのがその-因だと考えられる.
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古谷圭汰・冨山清升 . 鹿児島県鹿児島市・南九州市における陸産貝類の分布 . Nature of Kagoshima47 ( 1 ) 281 - 291 2021年5月
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担当区分:責任著者 記述言語:日本語 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
要旨
鹿児島県は東西に約270㎞, 南北には約600㎞にもなり, 西側の薩摩半島側と東側の大隅半島側に大きく分けられる. また, 数多くの自然に恵まれており, 生物多様性も豊かな地域である. その中で陸産貝類は移動性が低く, その地域の生物多様性を測る指標ともなっている.
しかし, 鹿児島県では本土における生物地理学的な陸産貝類の分布調査が比較的少なく, 特に, 微小貝に関するデータは乏しい. そこで本研究では, 鹿児島県の鹿児島市・南九州市の自然林が多く見られる公園を中心に陸産貝類相の調査を行い, 特徴や類似点, 相違点を明らかにすることを目的とした.
本研究は, 2020年10月から12月にかけて, 合計12地点においてサンプリング調査を行った. 採集には, 実地における見つけ取りおよび各調査地点の土壌サンプルをふるいにかける手法を用い, 各手法で採集された陸産貝類は水で十分に洗浄し乾燥させた後に同定をし, 種別にラベルをつけ保存した. その後, 調査結果から各地域の多様度および類似度指数を算出し, 類似度からクラスター分析を行った.
調査の結果, 鹿児島県鹿児島市・南九州市の自然林が見られる公園12カ所において, 微小貝を含めた陸産貝類の同定により, 2目12科25属27種, 合計1522個体の陸産貝類を確認できた. 12地点のうち, 最も多くの種数を確認できたのが, J.錦江湾公園であり, 合計12種が採集された. それに反して, 最も種数が少なかったのは, B.寺山ふれあい公園(鹿児島市), D.吉野公園(鹿児島市), G.武岡ハイランド第六公園(鹿児島市), L.鹿児島市観光農業公園(鹿児島市)の4地点で, 合計4種しか確認できなかった. また, 鹿児島県のレッドデータブックに記載されている〈鹿児島県のカテゴリー区分〉に基づき, 確認された各種の希少度評価を行ったところ, 分布特性上重要が12種, 準絶滅危惧が10種, 絶滅危惧Ⅱ類が2種, 移入種(国外移入種)が2種確認できた. このうち, 移入種(国外移入種)に関しては2種とも慈眼寺東公園から確認されており, 調査地点の相違点を考えると12地点の公園のうち慈眼寺東公園のみ,人の手が過度に加わった住宅街の公園であった. そのため, 他の11地点のおもに山中にある公園から国外移入種が確認できなかったことを鑑みると, 国外移入種はおもに人工的な樹木を多く有する住宅街に生息域をもつと考えられる. 本調査では, 鹿児島市・南九州市の数多くある公園の中でも敷地面積が広く, 自然林が多く残っている公園を調査地選びの基準としていたため, 必然的に山中にある公園での調査が多くなってしまい, 住宅街での公園の調査が2カ所のみとなっている. そのため今後は, より広域的に調査を行っていき, 正確かつ詳細に陸産貝類相を明瞭化していく必要がある. -
中間朋和・冨山清升 . 鹿児島湾喜入のメヒルギ林マングロ-ブ干潟において 防災設備事業により破壊された巻貝類の生態回復 . Nature of Kagoshima 47 ( 1 ) 293 - 310 2021年5月
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担当区分:責任著者 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
要旨
干潟は河川が運んだ土砂が河口付近や湾奥などの海底に堆積し,干潮の際に海面上へ姿を現したものであり,水質浄化や生物多様性の保全など重要な役割を持った環境である.しかし日本の干潟は, 戦後の経済発展に伴い失われつつある.干潟は遠浅で開発がしやすいことから, 埋め立てや干拓の対象になってきた. 一度消失した干潟は自然に回復することは難しく, 人工的な再生では持続的な生態系を維持することは困難である.鹿児島湾喜入町愛宕川支流河口干潟である喜入干潟は,太平洋域における野生のマングローブ林の北限地とされ,腹足類や二枚貝類をはじめ多くの底生生物が生息している.しかし,2010年から始まった防災道路整備事業の工事により喜入干潟の一部の環境が破壊され,干潟上の生物相は大きな被害を受けた.この研究では,先述した工事による環境の破壊が, 干潟上の生物相へどれほどの影響を与えているかを調査した.喜入干潟には非常に多くの巻貝類が生息している.その中でも特に,ウミニナBatillaria multiformis (Lischke, 1869),ヘナタリCerithidea (Cerithideopsilla) cingulate (Gmelin, 1791),カワアイCerithidea (Cerithideopsilla) djadjariensisi (K.Martins, 1899) は多くの個体数を確認できる. また, 採集もしやすく,個体の移動も少ないことから,この3種を環境評価基準として研究に用いることにした.種の同定を行う際は,ヘナタリとカワアイの幼貝が目視で判別することが極めて困難であるため,今研究ではこの2種をヘナタリの仲間としてまとめて扱うこととした.防災道路整備事業が巻貝類の生態にどれほど影響しているかを比較するため,3つの調査地点を設置した.1つ目は干潟上に建設されている橋の真下のStation A, 2つ目は工事による直接的な影響をあまり受けていないと思われる愛宕川支流の近くのStation B, 3つ目はマングローブ林付近の陸に近い場所のStation Cである.調査は2020年1月から同年12月まで行った.毎月1回採取したウミニナとヘナタリの仲間について,各月ごとのサイズ別頻度分布,個体数の季節変動をグラフにして,生態の変化について研究した.結果としては,ほとんどの地点, 種類で先行研究と比べ減少傾向にあり, 2012年以降の個体数の減少傾向は依然として続いていると考えられる. Station Aにおいて,ウミニナの個体数は昨年と比べ増加していたが,10 mmよりも小さい, 次世代を担う新規加入個体はウミニナ, ヘナタリの仲間, どちらに関してもあまり確認できず, 昨年と比較すると減少していた.他の地点と比較しても, 新規加入個体の大きな増加がみられないことから, Station A では他の地点よりも生態が回復するまでに時間を要するのではないかと推測される.また,各月のそれぞれの地点の個体数を比較すると,ウミニナはStation Aに,ヘナタリの仲間はStation Cに多く生息している傾向があるとわかった.したがって,ウミニナとヘナタリの仲間の同所的な生息が不可能になりつつあると考えられる.2010年に行われた道路防災整備事業による人的破壊が干潟に多大な影響を与えたということはこれまでの研究結果をみても否定はできない.この10年間の研究結果を比較してみると,喜入干潟上の環境が乱されて以来はっきりと目に見える回復傾向に向かっているとは言えないと判断できる.この研究はこれからも継続して観察, 調査を行うことに意味があると思われる. -
高尾政嘉・冨山清升 . 鹿児島湾喜入干潟における ヘナタリ Cerithidea cingulate (Gmelin, 1791) の殻形態の比較 . Nature of Kagoshima47 ( 1 ) 325 - 330 2021年5月
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担当区分:責任著者 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
要旨
ヘナタリ Cerithidea (Cerithideopsilla) cingulate(Gmelin, 1791) は房総半島・北長門海
岸から南西諸島,朝鮮半島,中国大陸,インド・西太平洋に分布し,内湾部の干潟や河口汽
水域の干潟,低潮帯表層に生息している.愛宕川河口域に広がる干潟において,ヘナタリを
はじめとする巻貝類のサイズ頻度分布の季節変化に関しては,若松・冨山(2000),真木ほ
か(2002),武内・冨山(2005),中島・冨山(2007)などによって報告されている.また,
波部(1995)は岡山県笠原市の潮間帯における本種の産卵様式について報告している.本研
究では,ヘナタリにおける生態系の調査として,月ごとにおける殻形態の差異を明らかにす
ることを目的とした.
鹿児島県鹿児島市喜入町愛宕川支流河口干潟(31°23’N,130°33’E)において,2020 年
1-12 月の期間に毎月 1 回,大潮の日に調査を行った.時間帯は干潮時刻付近に設定した.
調査地点にランダムに 50 cm × 50 cm のコドラートを設置し,その範囲内に出現した全て
の貝類を採取し,研究室に持ち帰り冷凍した.その後,肉眼でヘナタリとそれ以外の貝類に
分類した.計測には,Kameda et al. (2007) がオキナワヤマタカマイマイ属やニッポンマイ
マイ属を計測する際に用いた計測方法(Kameda 式),Urabe(1998) がチリメンカワニナを
計測する際に用いた計測方法(Urabe 式),冨山(1984)がタネガシママイマイを計測する
際に用いた計測方法(Tomiyama 式)を使用し,計測した変数の平均をそれぞれ地点ごとに
算出し,マハラノビス距離とユークリッド距離で各個体群間の殻形態に基づく類似距離を
クラスター分析の多変量解析で求めた.
クラスター分析の結果,季節的に隣接している地点でクラスターを形成するものもあっ
たが,季節的ににまとまったクラスターはほとんど形成していなかった.ユークリッド距離
同士のデンドログラムの比較では Urabe 式・変形 Kameda 式において 5 月,6 月,7 月の
集団が同じクラスターを形成し,Urabe 式・変形 Kameda 式・変形 Tomiyama 式において
6 月,7 月が同じクラスターを形成した.マハラノビス距離同士のデンドログラムの比較で
は Urabe 式・変形 Tomiyama 式において 5 月,6 月の集団が同じクラスターを形成した.
本研究において,季節的に近い集団が必ずしも形態的に類似性が高いとはいえないこと
が判明した.ヘナタリは 7 月,8 月に砂粒で表面が覆われた卵紐を産卵し,プランクトン幼
生期を待つことが報告されており(渡部,1995 ; 網尾,1963),この産卵に備えたヘナタ
リが多く生息するために,5 月,6 月,7 月の期間に最も集団を形成する要因になったので
はないかと考えられる.今後も季節変動の調査を引き続き行い,DNA 分析を用いた比較や
交雑の実験など様々な手法を行うことによって,総合的に分析し,ヘナタリの生態系の保全
を考えていくべきである. -
黒木理沙・冨山清升 . 桜島袴腰大正溶岩におけるシマベッコウバイの サイズ頻度分布の季節変化とその生活史 . Nature of Kagoshima 47 ( 1 ) 331 - 343 2021年5月
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担当区分:責任著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
要旨
鹿児島県の桜島にある岩礁性転石海岸である袴腰海岸には,複数の肉食貝類が生息している.そのなかでもシマベッコウバイ Japeuthria cingulata は1年を通して安定して存在している種である.シマベッコウバイは先行の研究より,成熟後も殻の成長が停止せず成長し続けることが分かっている.このことから分析が困難なため今まであまり生活史の研究が行われていない.そこで本研究では,シマベッコウバイのサイズ頻度分布とシマベッコウバイの内部成長線を観察し,シマベッコウバイの生活史を明らかにすることを目的とした.
調査は桜島袴腰海岸にてシマベッコウバイを,2017年12月から2020年11月の期間,各月干潮時に50個体見つけ取りにて採集した.採集後,カーボンファイバ-ノギスを用いて計測した殻高と個体数のヒストグラムを作成した.その結果より,2019年の10月,11月,12月を除いては,2018年,2019年,2020年で2月,3月,4月,7月,8月に殻高10mm以下の個体が採集できたことが確認できた.このことより,シマベッコウバイは春から夏にかけて安定的に新規個体の加入が行われていると考えられた.
測定後,乾燥した10個体のサンプルは研磨処理を行った.研磨処理後に双眼実体顕微鏡を用いて殻断面を観察したところ,内部成長線とみられる線を確認できた.その後,エッチング処理,スンプ処理を行った後,光学顕微鏡を用いて観察した.エッチング処理では3%に調整した塩酸(濃塩酸)と3%に調整した酢酸にそれぞれ2分,1分30秒,1分,30秒ずつ浸けた.スンプ処理では,殻断面にスンプ液をはけで殻断面に塗りスンプ板をはり10分乾燥させた.双眼実体顕微鏡での線の観察には成功したが,光学顕微鏡を用いての内部成長線の観察は線を数えられるほど明瞭には見えなかったため,観察は困難であった.また,エッチング処理では,30秒間塩酸と酢酸につけたものが最もよく内部成長線が観察できた.しかし,新型コロナウイルスの影響で思うように研究ができず,今回の研究ではエッチング処理での塩酸と酢酸に浸す最適な時間の割り出しまでしか行えなかった.今後は,内部成長線の数が数えられ,シマベッコウバイの年齢が算出でき,生命表分析が行えたらより信頼性の高いデータが得られると考える.さらに,より明確にシマベッコウバイの生活史が明らかになると考えられる.
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冨山清升,庄野 宏 . 数理データサイエンス教育を鹿児島大学の全学必修分野として 導入した経緯 . 鹿児島大学総合教育機構紀要2021 91 - 106 2021年3月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌)
Abstract
In recent years, mathematical and data science has become increasingly important at all levels of study and in our society at large. At base, data science involves analyzing various data using mathematics and information science as a source of knowledge. Given its rising significance, comprehensively understanding and studying data science in the coming years will prove pivotal. Accordingly, in May, 2019, the Japanese government mathematical and data science a mandatory subject at all universities in Japan. Later that year, Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology requested universities nationwide to collaborate in making data science a compulsory subject, the initial site for which was Kagoshima University. Following a plan developed by the Institute for Comprehensive Education, mathematical and data science thus became a required subject at Kagoshima University in 2020. As a result, three phases of curricula were developed to be implemented. First, basic mathematical and data science is to be taught in the first half year of enrollment. Second, statistics taught to second year students will impart knowledge about applying mathematical and data science. Last, the specialized learning of mathematical and data science will be taought in a specialized course in each department. The curriculum plan was approved.
要旨
現在、AIやビックデータの処理といった新たな情報科学分野が発展しつつあり、日常生活においても急速に浸透しつつある。これらの分野を扱う基礎科学は数理データサイエンスと呼ばれており、大学においても全大学生の必須の知識として身につけることが求められている。鹿児島大学では、数理データサイエンス教育(以下DS教育と略す)を全学必修科目として教える事が計画され、2020年度から実行に移された。鹿児島大学におけるDS教育の全学必修化は、2019年度5月から共通教育センターにより計画立案されたが、異例の短期間で実施することができた。鹿児島大学におけるDS教育の教育プログラム具体化の過程を、他校の事例の調査、各学部との折衝、鹿児島大学独自案の策定、各種会議の承認、などの観点からまとめた。また、DS教育の基本プログラムとして、1年次に全学必修科目となっている「情報活用」にDS教育の初歩的内容として組み込み、1・2年次に主に理系学部で準必修科目となっている「基礎統計学入門」をDS教育の応用的内容として位置づけ、各学部の専門課程で行われるDS教育の専門的内容につなげていく、積み上げ式のカリキュラム内容を示した。 -
坂井美日,的場千佳世,河邊弘太郎,中筋健吉,渡邊 弘,藤村一郎,冨山清升 . ステューデントスキル教育;社会からの要請に焦点化した分野の教 育を初年次セミナーに組み込み全学必修化とした経緯 . 鹿児島大学総合教育機構紀要2021 75 - 90 2021年3月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島大学総合教育機構
Abstract
"Student skills education " refers to programmatic education that allows students to acquire common sense as members of society. Japan’s Ministry of Education, Culture, Sports, Science and Technology has made much of “student skills education” in elementary and high school. Now, social initiatives have vigorously called for Japan’s universities to guarantee the quality of higher education. Diverse expectations in Japanese society position universities as “pawns of education” and committees of the Japanese government have reported some grand designs along those lines. One proposes student skills education as part : “a program that lets students acquire social common sense in the field at the urging of society”. The field encompasses a wide range of subjects, including “research ethics”, “career development”, “information security”, “consumer practices”, “fundamental human rights”, “intellectual property rights”, “sovereign education” and “land tax”. In particular, Japanese society needs to improve human rights education for the younger generation due to the rise of racism and hate speech against minority groups in Japan. At Kagoshima University, some student skills education had already commenced in various elective courses in 2019, along with education about information security, Internet ethics, and dependency (e.g., on drugs) taught in mandatory courses. Against that background, following a plan developed by the Institute for Comprehensive Education, student skills education became a required subject at Kagoshima University in 2020. Some important topics in student skills education include research ethics, career development (e.g. career education, citizenship education, and land tax education), and legal affairs (e.g., human rights education, copyright education, consumer education, and work rule education). Such student skills education has been incorporated in this mandatory startup seminar at Kagoshima University.
要旨
ステューデントスキル教育とは、研究倫理・キャリア・情報セキュリティ・消費者・人権・知財・主権者・租税・依存症対策等、「社会からの要請に焦点化した」「個別のいわゆる現代的な課題やテーマに焦点化した教育」の総称である。鹿児島大学においては、2019年度に、このステューデントスキル教育を初年次必修科目(初年次セミナー)に導入することが決定された。その当初の案は、(1) 倫理関連分野、(2) キャリア教育分野、(3) 法務関連分野について2コマずつ、計6コマを必修化するというものであった。しかし、それを実行に移しそうとした矢先、COVID-19の影響により授業計画を変更せざるを得ず、2020年度後期現在は、計4コマに圧縮されている。 -
古谷圭汰・冨山清升 . 鹿児島県鹿児島市・南九州市における陸産貝類の分布 . Nature of Kagoshima47 ( 1 ) 281 - 291 2021年2月
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担当区分:責任著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島自然環境保全協会
要旨
鹿児島県は東西に約270㎞, 南北には約600㎞にもなり, 西側の薩摩半島側と東側の大隅半島側に大きく分けられる. また, 数多くの自然に恵まれており, 生物多様性も豊かな地域である. その中で陸産貝類は移動性が低く, その地域の生物多様性を測る指標ともなっている.
しかし, 鹿児島県では本土における生物地理学的な陸産貝類の分布調査が比較的少なく, 特に, 微小貝に関するデータは乏しい. そこで本研究では, 鹿児島県の鹿児島市・南九州市の自然林が多く見られる公園を中心に陸産貝類相の調査を行い, 特徴や類似点, 相違点を明らかにすることを目的とした.
本研究は, 2020年10月から12月にかけて, 合計12地点においてサンプリング調査を行った. 採集には, 実地における見つけ取りおよび各調査地点の土壌サンプルをふるいにかける手法を用い, 各手法で採集された陸産貝類は水で十分に洗浄し乾燥させた後に同定をし, 種別にラベルをつけ保存した. その後, 調査結果から各地域の多様度および類似度指数を算出し, 類似度からクラスター分析を行った.
調査の結果, 鹿児島県鹿児島市・南九州市の自然林が見られる公園12カ所において, 微小貝を含めた陸産貝類の同定により, 2目12科25属27種, 合計1522個体の陸産貝類を確認できた. 12地点のうち, 最も多くの種数を確認できたのが, J.錦江湾公園であり, 合計12種が採集された. それに反して, 最も種数が少なかったのは, B.寺山ふれあい公園(鹿児島市), D.吉野公園(鹿児島市), G.武岡ハイランド第六公園(鹿児島市), L.鹿児島市観光農業公園(鹿児島市)の4地点で, 合計4種しか確認できなかった. また, 鹿児島県のレッドデータブックに記載されている〈鹿児島県のカテゴリー区分〉に基づき, 確認された各種の希少度評価を行ったところ, 分布特性上重要が12種, 準絶滅危惧が10種, 絶滅危惧Ⅱ類が2種, 移入種(国外移入種)が2種確認できた. このうち, 移入種(国外移入種)に関しては2種とも慈眼寺東公園から確認されており, 調査地点の相違点を考えると12地点の公園のうち慈眼寺東公園のみ,人の手が過度に加わった住宅街の公園であった. そのため, 他の11地点のおもに山中にある公園から国外移入種が確認できなかったことを鑑みると, 国外移入種はおもに人工的な樹木を多く有する住宅街に生息域をもつと考えられる. 本調査では, 鹿児島市・南九州市の数多くある公園の中でも敷地面積が広く, 自然林が多く残っている公園を調査地選びの基準としていたため, 必然的に山中にある公園での調査が多くなってしまい, 住宅街での公園の調査が2カ所のみとなっている. そのため今後は, より広域的に調査を行っていき, 正確かつ詳細に陸産貝類相を明瞭化していく必要がある. -
Yusuke Katanoda*, Takayuki Nakashima*, Kiyonori Tomiyama*, Takahiro Aasami**, Shino Ichikawa*, and Ampon Wiwegweaw* . The origin of Semisulcospira libertina (Gould, 1859) (Gastropoda; Pleuroceridae) distribution in Take-shima, Northern Ryukyu Islands, Japan as established by a gigantic volcanic explosion approximately 7,300 years ago, based on a DNA analysis. . Biogeography22 6 - 8 2020年12月査読
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記述言語:英語 掲載種別:研究論文(学術雑誌)
Abstract
Semisulcospira libertina (Gould, 1859) (Gastropoda; Pleuroceridae) is a common fresh water snail found in Japan. The genetic population structure and invasion pathway of S.libertina in the southern Ôsumi peninsula, the southern Satuma peninsula and the Ôsumi islands were studied by analysis of the mtDNA-COI sequences. The samples were collected at seven localities in the southern Ôsumi peninsula, the southern Satuma peninsula and the Ôsumi islands, consisting of five islets (Tanega-shima, Yaku-shima, Kuchierabu-jima, Kuro-shima, and Take-shima). Analysis of the mtDNA-COI gene divides S.libertina into two groups: the Kagoshima group and the Yaku・Mishima group. The results of molecular analysis and the geological history of the region under study suggest that S.libertina in Take-shima which was formed established by a gigantic volcanis explosion approximately 7,300 years ago, might have been introduced from Yaku-shima or Kuchierabu-jima. -
佐藤 海・冨山清升 . 鹿児島県内のウミニナ類の分布と形態比較 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 283 - 290 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
鹿児島県に分布する軟体動物(貝類)の総種 数は,非常におおざっぱな概算でも4,000種を超 えると言われており(行田,2003),陸産・淡水 汽水産の軟体動物に限っても,少なくとも1,000 種以上の種が生息していると推定される.(鹿児 島県環境生活部環境保護課,2003)しかし淡水域 や汽水域の調査が十分でないこともあって,どれ だけの種数の陸産・淡水汽水産貝類が鹿児島県に 分布しているのかその実態は不明な部分が多い. 鹿児島湾内の河口・干潟における巻貝相の研究は これまで行われてきたが,鹿児島湾外の河口・干 潟における巻貝相の研究は行われてこなかった. そのため本研究では鹿児島湾内と鹿児島湾外の巻 貝相の一端を明らかにするために分布の生息状況 調査を行った.さらに今回の調査により,多くの 調査地から生息が確認された種に関してはその生 息状況を詳しく記載した.特にウミニナ,フトヘ ナタリについては干潟の標徴種であることから種 の生息状況を地図上にプロットした.さらにウミ ニナ(Batillaria multiformis)に関しては殻高と殻 幅を測定し,鹿児島湾内の個体と鹿児島湾外の個 体で殻の殻高と殻幅の比率にどのような違いがあ るか多重比較検定(Shceffe法)により殻の比較 を行った.これにより,本研究では鹿児島湾内と
鹿児島湾外における巻貝の分布状況の一端を明ら かにするとともに,ウミニナの形態に関して,鹿 児島湾内と外洋に面した鹿児島湾外で差があるの かどうか検討した.調査地の選定は「鹿児島県の 絶滅のおそれのある野生動植物 鹿児島県レッド データブック」(鹿児島県環境生活部環境保護課, 2003)において鹿児島県の重要な干潟として記載 されている河口域,海岸を参考にした.調査では 2010年3月から11 月にかけて大潮の干潮時刻に 採集を行った.調査方法は調査地の干潟,河口域, 海岸にて見つけ取りで,なるべく多くの種の巻貝 を採集するようにした.形態比較を行うウミニナ に関してはなるべく個体数が多くなるように採集 した.採集した個体は研究室内に持ち帰り,同定 を行った.ウミニナに関してはノギスを用いて殻 高と殻幅を0.1 mmまで計測し,記録した.その 結果,鹿児島湾内外合わせて4目10科19種が採 集された.そして河川毎の種の生息状況から,ヘ ナタリ,カワアイなどの比較的環境劣化に弱いと されている種の生息地は減少してきていることが 分かった.鹿児島湾内外においてウミニナの生息 を広く確認することはできたが,それに比べてフ トヘナタリの生息地は少なかった.フトヘナタリ はウミニナに比べて環境の劣化への耐性が弱いこ とからフトヘナタリの生息地を失わせるほど汽水 環境が悪化している可能性がある.ウミニナの殻 の形態比較では今回の結果からは,鹿児島湾内と 鹿児島湾外で殻の形態に違いは見られなかった. しかし,思川と本城川の個体間で殻の形態で有意 な差があった.本研究ではこの殻形態の違いの原 因を明らかにすることはできなかったが,思川と 本城川の生息地において栄養条件が異なり,それ が殻の形に影響している可能性が考えられる.今 後の課題として,生息地の水質や栄養量,底質などの違い殻の形の成長にどのような影響を及ぼす か調査研究が必要であろう. -
齋藤元樹・冨山清升 . 鹿児島湾におけるイボニシの形態比較 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 451 - 456 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
イボニシReishia clavigera (Kuster, 1860)は,北 海道南部,男鹿半島以南に分布しているアッキガ イ科に属する肉食性巻貝である.従来の研究では, 吉元・冨山(2014),緒方・冨山(2018)などによっ て生活史が報告されてきたが,複数個所でのイボ ニシの計測は行われていない.本研究では,イボ ニシのサイズ分布の調査を行い,場所ごとの形態 の違いを明らかにすることを目的とした.調査は 鹿児島湾内10か所から採集されたイボニシの殻 標本300個体を用いた.デジタルカメラ(Canon IXY 650)で撮影した画像を,画像計測ソフト (Micro Measure)を用いて計測を行った.計測に は,Kameda et al. (2007)がオキナワヤマタカマイ マイ属やニッポンマ イマイ属を計測する際に用 いた計測方法,Urabe (1998)がチリメンカワニナ を計測する際に 用いた計測方法,冨山(1984) がタネガシママイマイを計測する際に用いた方法 を使用して計測を行った.結果,変形Kameda式 のユークリッド距離では地点E,F,B,A,Kと 地点G,I,J,C,Hがそれぞれグループを形成 した.変形Kameda式のマハラノビス距離では地 点 E,J,K と地点C,H,B,A,F がそれぞれ グループを形成した.Urabe式のユークリッド距 離では地点C,J,H,G,Iと地点K,A,B,E,
Fがそれぞれグループを形成した.Urabe式のマ ハラノビスでは地点E,A,K,G,Jがグループ を形成した.変形Tomiyama式ユークリッド距離 では地点G,I,C,Hと地点E,F,J,B,A,K がそれぞれグループを形成した.変形Tomiyama 式マハラノビス距離では地点F,A,H,G,Kが 同じグループを形成した.地理的に隣接した地点 でクラスタが見られたのは,変形Kameda 式の ユークリッド距離のE 地点とF 地点,変形 Kameda式のマハラノビス距離のJ地点とK地点, 変形Tomiyama式のE地点とF地点,Urabe式の ユークリッド距離のA地点とB地点,E地点と F地点だった.これらから一部の地域で隣接する 地点でクラスタを形成することが分かった.隣接 した地域でクラスタが見られなかった原因として は,イボニシの撮影の時に殻標本の角度を一定に しなかったことなどが考えられる. -
牧本里穂・冨山清升 . 鹿児島県薩摩半島の東シナ海側における陸産貝類の分布 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 435 - 441 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
鹿児島県は日本の西南部に位置し,大きく本 土と離島の2つの地域分かれている.これまで, 離島の多くで陸産貝類の分布調査が行われていた が,県本土の詳しい生物地理学的な分布調査の研 究は比較的少ない.そこで本研究は薩摩半島東シ ナ海側に注目し,12地点での陸産貝類の分布調 査を行い,各調査域における陸産貝類相を明らか にすることを研究目的とした.薩摩半島東シナ海 側の12カ所において,目視による陸産貝類の見 つけ取りをおこなった.同定作業後地点ごと種別 にラベルをつけ保存した.その後地点ごとに類似 度指数,鹿児島県のレッドデータブックによる希 少性の点数分けを行い、データをまとめた. 調査の結果,鹿児島県日置市・南さつま市内 の12地点の調査の結果,中腹足目8種,柄眼目 13種,足襞目1種の合計22種,個体数931個体 の陸産貝類が採集された.12地点の内最も多く の種数が採集できた地点はC千本楠であり,中 腹足目4種,足襞目7種の合計11種が採集された. 最も少ない種数が採集された地点は,H玉御前神 社の中腹足目2種であった. -
村永 蓮・冨山清升 . 鹿児島湾におけるウミニナ Batillaria multiformis (Liscke, 1869) の殻形態の比較 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 423 - 433 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
ウミニナBatillaria multiformis (Lischke, 1869)は 内湾環境や河口域干潟に生息する典型的な巻貝で あり,個体ごとの形態の差異が多いことが知られ ている.藤田(2009)は,全国的に生息地が減少 し,減少傾向にあるウミニナが鹿児島湾では普通 にみられると報告しており,鹿児島県(2016)で は,分布特性上重要とされている.本研究では, 鹿児島県内の河口干潟におけるウミニナの殻形態 を比較し,本種における鹿児島県内での各河口・ 干潟の殻形態の明らかにすることを目的とした. また,近縁種でありウミニナと,殻での区別が困 難なホソウミニナBatillaria cumingii (Crosse)を比 較対象として使用した.ウミニナの標本は鹿児島 県の22河川で採集し,各河川で30個体ずつ合計 660個体採集した.また,鹿児島県出水市長島町 の伊唐浦のホソウミニナを比較のため採集し,使 用した.計測には,Kameda et al. (2007)がオキナ ワヤマタカマイマイ属やニッポンマイマイ属を計 測する際に用いた計測方法(Kameda式), Urabe (1998)がチリメンカワニナを計測する際に用いた 計測方法(Urabe式),冨山(1984)がタネガシ ママイマイを計測する際に用いた計測方法 (Tomiyama式)を使用し,計測した変数の平均を それぞれ地点ごとに算出し,マハラノビス距離と
ユークリッド距離で各個体群間の殻形態に基づく 類似距離をクラスター分析の多変量解析で求め た.クラスター分析の結果,地理的に隣接してい る地点でクラスターを形成するものもあったが, 地理的にまとまったクラスターはほとんど形成し ていなかった.比較対象として使用したホソウミ ニナはマハラノビス距離を用いたKameda 式, Tomiyama式のデンドログラムを除いて,ウミニ ナの個体群とすべて混ざる結果となった.ユーク リッド距離同士のデンドログラムの比較では Urabe 式・変形Kameda 式・変形Tomiyama 式す べてにおいて1 つの同じクラスター,変形 Kameda式・変形Tomiyama式において5つの同 じクラスターを形成した.マハラノビス距離同士 のデンドログラムの比較では,Urabe 式,変形 Tomiyama式において1つの同じクラスター,変 形Kameda式,変形Tomiyama式において2つの 同じクラスターを形成した.本研究において地理 的に近い集団が必ずしも形態的に類似性が高いと は言えず,ウミニナはKameda式,Tomiyama式 を用いることで殻形態の比較が可能であると考え られる.今回の3つの計測方法でホソウミニナを ウミニナの集団と分けることができたのは変形 Kameda式,変形Tomiyama式のマハラノビス距 離の2つであったが,この結果も距離が大きく離 れていたとは言えず,今回の3つの計測法を用い てもウミニナとホソウミニナを同定することは困 難であると考えられる.今後の課題としてDNA 分析を用いた比較や交雑の実験,環境要因の調査 などの様々な手法を行うことによって,総合的に 分析し,比較を行うことが重要であると考える. そして,より多くのホソウミニナのサンプルとウ ミニナを比較し殻形態での同定ができないか再検 討する必要があると考えられる.