論文 - 冨山 清升
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植木拓郎・冨山清升 . 鹿児島県薩摩半島鹿児島湾側における陸産貝類の分布 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 403 - 414 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
鹿児島県は南北に広い南北に広い土地を有し ている.そのために多種多様な生態系がみられ, 多くの生物が生息している.その中で陸産貝類は 移動性が乏しいために,離島などでは独自の気候 に適応して進化した固有種が多くみられ,様々な 調査が行われてきた.しかしながら,鹿児島本島 では離島に比べて調査例が少ない.そこで,本研 究では鹿児島本島の薩摩半島鹿児島湾側に焦点を 当て,主な調査地を鹿児島市,および姶良市とし, 陸産貝類の分布調査を行い,それぞれの調査地で の特徴,類似点,相違点を明らかにすることを目 的として行った.本調査は,2019 年 2 月から 2020年12月にかけて12地点でサンプリング調 査を行った.採取方法は主として見つけ取りをそ れぞれ調査地で合計1時間程度行った.また,微 小な貝類には見つけ取りでの採取が困難なため, 調査地の土壌約500 mlを研究室に持ち帰り,乾 燥機で乾燥させて後,ふるいにかけ,双眼実体顕 微鏡を用いて分別した.その後,種同定を行いサ ンプルとして保存した.その後他地点との類似性 を明らかにするためにサンプルをもとに類似度指 数を算出し,算出した類似度指数を使いクラス ター分析を行い,デンドログラムを作成した.調 査の結果,鹿児島県薩摩半島鹿児島湾側の12地
点の調査で計2目10科19属19種1453個体を採 取することができた.愛宕神社,南方神社,多賀 神社の3か所では10種もの陸産貝類採取するこ とができたが,七社神社と宮坂神社では4種しか 採取することができなった.また,類似度から求 めたデンドログラムの結果,大きく3つのグルー プに採取地がわかれた.鹿児島県薩摩半島鹿児島 湾側を調査地とした今回の調査では,これらの場 所の優占種は,アズキガイとヤマクルマであると 考えられる.また,各地点に出現したレッドデー タブックに記載されている種についてのデータで は,南方神社が著しく高い値を示しており,陸産 貝類の希少種が多く生息していることを示してい た.それぞれの調査地点での類似度をもとに作成 したデンドログラムはおおよそ採取地が近い者同 士でグループ化がされていた.その中でも,宮坂 神社が離れている場所であるのにもかかわらず, 正一位稲荷大明神とグループ化されていること は,宮坂神社で採取された合計個体数と合計種数 が少なったためと考えられる.これらの調査結果 をより信頼度が高いものとするために,より細か い調査が必要になってくると考えられる. -
木村玄太朗・冨山清升 . 鹿児島湾喜入マングローブ干潟において 防災道路整備事業により破壊された愛宕川河口の巻貝類の生態回復 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 383 - 402 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
干潟は河川が運んだ土砂が河口付近や湾奥な どの海底に堆積し,干潮の際に海面上へ姿を現し たものであり,水質浄化や生物多様性の保全など 重要な役割をもった環境である.日本の干潟は, 全国で過去60年の間に40%が失われた.干潟は 遠浅で開発がしやすいことから,埋め立てや干拓 の対象になってきた.これらの一度消失した干潟 は自然に回復することは難しく,人工的な再生で は持続的な生態系を維持することは困難である. 鹿児島湾喜入町愛宕川支流の河口に位置する喜入 干潟は,太平洋域における野生のマングローブ林 の北限地とされ,腹足類や二枚貝類をはじめ多く の底生生物が生息している.しかし2010年から 防災道路整備事業の工事が始まり,これによって 干潟上の動物群集が大きな破壊を受けた.この防 災道路整備事業が干潟の生物相にどれほどの影響 を与えているのか,どのように回復していくのか 調査する必要性があり,研究を行った.喜入干潟 には非常に多くの巻貝類が生息している.その中 でも,主にウミニナBatillaria multiformis (Lischke, 1869),へナタリCerithidea (Cerithideopsilla) cingulate (Gmelin, 1791),カワアイCerithidea (Cerithideopsilla) djadjariensis (K. Martins, 1899)の3種が多 く生息している.これら3種は採集も容易で個体
の移動も少ないことから,これら3種を環境評価 基準生物として研究に用いることとした.種の同 定を行う際,ヘナタリとカワアイの幼貝が目視で 判別することが極めて困難であるため,今研究で はこの2種をヘナタリの仲間としてまとめた.防 災道路整備事業が巻貝類の生態へどれほど影響す るかを比較するため,3つの調査地点を設置した. 1 つ目は干潟上に建設されている橋の真下で Station A,2つ目は工事による影響をあまり受け ていないと考えられる愛宕川支流の海に近いとこ ろでStation Bとした.3つ目はマングローブ林の 近くの陸に近いところでStation Cとした.調査 は2019年1月から同年12月まで行った.毎月1 回採取したウミニナとヘナタリの仲間について, 各月ごとのサイズ別頻度分布,個体数の季節変動 をグラフにして生態の変化について研究した.結 果として,今研究では一部で個体数の増加が確認 されたが,2012年以降大きく個体数の減少が続 いていることから個体群の消滅の可能性がないと はいえない.また,次世代を担う新規加入個体の 増加もはっきりとは確認されないため,Station A は生態の回復にまだ時間を要するのではないかと 考えられる.また,ウミニナはStation B,ヘナタ リの仲間はStation Cに多く生息している傾向に あり,ウミニナ,ヘナタリの仲間の同所的な生息 が不可能になりつつあるということも分かった. 今研究から新たに陸側に調査地点Station Cを設 置し,調査地の範囲を広げた.2010年に行われ た防災道路整備事業が干潟上の生態系に影響を与 えていることは否定できない.これまでの約9年 間の調査を比較して,喜入干潟の生態系が破壊さ れて以来,干潟の生態系は回復傾向にあるとは断 定できない.そのため,この研究はこれからも継 続していくことに意味があると思われる. -
奥 奈緒美・冨山清升・橋野智子 . 殻の内部成長線解析に基づく 桜島袴腰大正溶岩の潮間帯におけるイシダタミの生活史 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 371 - 381 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
イシダタミMonodonta labio confuseは,日本に おいては北海道以南に分布している転石海岸の潮 間帯に多く生息する海産巻貝である.本種の生活 史や生態に関する研究例は多いが,本種の成長線 を用いた研究例は少ない.橋野(2010)は,細か な内部成長線も含めたすべての内部成長線を数え るといった内容の研究を行った.本研究では,そ の中でも太い内部成長線(年輪)を数えることで, より詳細な生活史や齢の調査が可能であるかを検 討した.同時に採集した殻高サイズを測った.サ ンプルは,鹿児島市桜島横山町の袴腰海岸の潮間 帯で,月に1回2007年7月から2009年10月の 期間に集めたものを使用した.観察しやすいよう に貝を処理した後,殻をグラインダーにかけて 削った.削った断面には内部成長線が観察できる. デジタル顕微鏡を用いて,175倍で殻頂を中心に 内部成長線を撮影して記録した.殻の断面に見ら れる縞状の太い内部成長線(年輪)のみを数えた. x軸に殻高,y軸に内部成長線数の散布図を作成 した.内部成長線と殻高の相関は,殻高10 mm 未満の範囲が一番大きい.10 mmを境に相関係 数の値は小さくなっていった.一定のサイズまで は本数と殻高の相関があるといえ,殻高サイズが 一定以上のサイズを超えると相関がなくなること
がわかった.このことから,体サイズを測定して 齢の決定をすることは難しいことがわかった.従 来のサイズ頻度分布を使った齢査定では,新規個 体の進入時期と成長遅滞の期間はわかるが,齢を 決定することはできない,イシダタミの外部成長 線は不明瞭であるが,内部成長線は明瞭なので, 今後の生活史や齢の調査に使えると思われる. -
北迫大和・冨山清升 . ヒメカノコの交尾行動と殻サイズ分布の季節性変化 . Nature of Kagoshim46 ( 1 ) 335 - 343 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshim
要旨
鹿児島県喜入町の愛宕川河口の干潟には,メ ヒルギ,ハマボウからなるマングローブ林が広 がっており,干潟表面にはアマオブネガイ科に属 するヒメカノコ(Clithon oualaniensis)が生息し ている.ヒメカノコは房総半島以南の河口泥上に 生息しており,球形で表面は平滑で光沢があり, 黄褐色の地色に縦縞と三角形の鱗模様がある.菊 池(2001)によってヒメカノコが1年生であると いうことが発見されたが,その生態の詳細はまだ 明らかにされていない.本研究ではヒメカノコの 交尾行動におけるサイズの相関はあるのかを明ら かにすることを主要な目的とした. 調査は愛宕川河口の支流にある干潟で毎月1 回大潮または中潮の日の干潮時に行なった.2010 年12月から2011年12月の期間において,25 × 25のコドラートをマングローブ林の入口と奥と でそれぞれランダムに4カ所設置し,出現個体数 を記録した.またヒメカノコの殻長を0.1 mm単 位で測定した.さらに2011年の6月から8月の 期間において,交尾行動をしている個体を50ペ アランダムに採取し,上側の個体と下側の個体に 分けて,各個体の殻長を0.1 mm単位で測定した. マングローブ林の入口では8月までは5 mm以上 の個体が多く観察されたのに対し,9月頃から3
mm前後の観察される個体の割合が増加したこと から9月に新規参入が起こったと考えられる.マ ングローブ林奥では年間通してグラフの形に大き な変化が見られず目立った新規加入も観察されな かった.また交尾行動をしている個体数を50 × 50のコドラートを用いて範囲内にいる全ての交 尾行動をしている個体数を測定したところ,6月 が23ペア,7月が13ペア,8月が10ペアであっ た.各月とも交尾行動に弱い相関が見られ,この ことからヒメカノコはサイズ同類交配を行なって いると考えられ,雄か雌のどちらかに配偶者選択 行動があると考えられる.さらに,今回の研究に おいて,6月から8月にかけて白い卵塊のような ものが観察されたが,これがヒメカノコのものか は今回の研究では特定できなかった.しかし,菊 池(2001)によると,ヒメカノコが2 mm程度の 大きさに成長するのに3–4ヶ月かかるとされ,本 研究においても交尾行動が6月頃から本格的に観 察され始め,9月頃から2 mm程のヒメカノコが 多く観察されたことから,この白い卵塊がヒメカ ノコのものである可能性が高い. -
平田浩志郎・冨山清升 . 鹿児島県喜入干潟おけるヘナタリの内部成長線解析に基づく生活史 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 345 - 350 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
軟体動物の多くは,身を守るために貝殻を形 成する.硬い殻の中に身を隠すことによって,環 境の変化や外敵からの捕食から逃れることができ る.さらに貝殻は体を支える機能も担っている. 殻の形成には,外套膜の辺縁部が関係している. 殻皮と呼ばれる有機物の膜が分泌され,その上に 炭酸カルシウムの結晶が付加されながら大きく発 達していく.このような成長は付加成長と呼ばれ るが,付加成長の特徴として成長線の形成が挙げ られる.成長線は様々な成長障害(ディスターバ ンス)で貝殻に記録されていき,成長の記憶とし て重要視されている.しかし日本国内で,この成 長線観察に関する過去の研究は化石を用いたもの を除いて他になく,現生する巻貝での研究はまっ たく行われていない.本研究では,海産巻貝であ るヘナタリCerithidea (Cerithideopsilla) cingulate (Gmelin, 1791)の内部成長線観察の手順を確立す ることを目的とした.サンプルは鹿児島県鹿児島 市喜入町の愛宕川流域における干潟,石油基地前 の干潟とマングローブ林内の2地点で採集し,50 cm × 50 cmのコドラートをそれぞれ3箇所ランダ ムで設置し,その中にいる全個体採集した.これ を2010年12月~2011年12月まで,毎月の大潮 干潮時に行った.採取した個体は,まず観察する
個体の殻高・殻幅をカーボンファイバーノギスで 計測した.研磨作業は#400の研磨粉でグライン ダーにかけ荒削り処理を行い,その後研究室に持 ち帰って#4000の研磨粉を用いて鏡面研磨処理 を行った.鏡面研磨処理を行ったサンプルは,双 眼実体顕微鏡で内部成長線のようなものは観察で きるが,さらに明瞭にするため,内部成長線が酸 に対して他よりも耐性があるという特徴を活か し,エッチング処理を行った.エッチング処理で は,まずHClを用いで研磨処理を行った断面を 溶かし,水でよく洗った後に,CH3COOHを用い てさらに溶かし,水でよく洗い断面に凹凸を作っ た.これをSUMP処理を用いて凹凸の型を取り, さらに光学顕微鏡で観察した.結果として,海産 巻貝のヘナタリで内部成長線観察を行うことがで きた.しかし,本研究において内部成長線がどの ような要因(例えば,冬の成長停滞)で形成され, また,どの時期に形成されるかは断定することは できなかった.おおよその年齢測定も行うことは できなかった.しかし,内部成長線観察のなかで 同じ科に属するフトヘナタリCerithidea rhizophorarumとエッチング処理に要する時間が大きく異 なっていたことから,ほかの細かな要因も考えら れるが,少なくとも底質環境の違いやその食性に 関する考察ができた.さらに,過去の研究からも 明らかになっているが,殻幅のサイズ(細かく言 えば,殻口縁)と内部成長線には何らかの関係が あると考えられた.今後の課題として,内部成長 線観察と殻のサイズ頻度分布などから,内部成長 線の形成時期を調査し,またヘナタリの寿命など 調査する必要があるだろう.内部成長線は,今後 の海産巻貝類の研究で生活史や年齢測定におい て,非常に重要な情報を提供してくれるものと考 えられる. -
吉本 健・冨山清升 . 鹿児島県桜島袴腰海岸おけるカヤノミカニモリの生活史 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 311 - 316 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
鹿児島県鹿児島市の桜島袴腰海岸は,1914年 の大正噴火で噴出した溶岩で形成された岩礁性の 転石海岸である.袴腰海岸には複数の肉食貝類が 生息しており,カヤノミカニモリ(Clypeomorus bifasciata)もその中の1種である.カヤノミカニ モリは盤足目オニノツノガイ科に属する巻貝であ る.本種は,房総半島・山口県以南,熱帯インド・ 西太平洋に分布し,潮間帯上部,岩礁のくぼみに 群生する.本研究では,桜島袴腰海岸に生息する カヤノミカニモリについて,サイズ頻度分布,雌 雄の比率を調査し,カヤノミカニモリの生活史を 明らかにすることを目的とした.サイズ頻度分布 調査は2010年12月から2011年12月まで毎月1 回,コドラートを用い,3ヶ所で25 × 25 mの枠 内にいる個体を全て採取し,ノギスで殻長を0.1 mmまで測定し記録した.この調査の結果,本種 は年間を通してサイズピークが20 mm前後であ り,10 mm 前後の小さい個体群が1 月,11 月, 12月に出現する結果となった. 雌雄の比率を調査するための生殖腺観察は 2011年5月から2011年12月の期間で行い,各 月の採取した固体の中から,20個体の生殖腺を 光学顕微鏡で調査した.この調査の結果,2011 年6月から2011年9月の間で精子を観察できた.
また,精子が見られない時期では卵子が多く見ら れた.また,繁殖期におけるメスとオスの殻長平 均値の差を調査するために,独立変数を雌雄,従 属変数を殻長とし,t検定を用いた.結果につい ては,メスとオスの殻長差に有意差はなかった. 生殖腺観察において,精子が見られる時期が6月 から9月であったことから,本種の生殖時期は6 月から9月の間であると考えられる.産卵時期は 10月から11 月であり,サイズ頻度分布調査にお いて,11 月に出現した小さい個体群は新規加入 個体であると考えられる.また,2010年1月と 2011年11 月,12月の小さい個体群のサイズに変 化があまり見られないことから,本種は冬に成長 スピードが低下する可能性がある. -
吉住嘉崇・冨山清升 . 鹿児島県喜入干潟における巻貝相の生態学的研究 . Nature of Kagoshima46 ( 1 ) 291 - 305 2020年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
フトヘナタリCerithidea rhizophorarum (A. Adams, 1855)は,東京湾以南,西太平洋各地に分布し, 潮間帯や内湾の干潟などの汽水域に生息する雌雄 異体の巻貝である.殻幅は35–40 mmほどで外観 は太く大きく,一般的に灰色や黒褐色をしている. また,成貝になると殻頂部が失われるのが特徴で ある.本研究では,フトヘナタリの個体群構造, サイズ頻度分布と個体数の季節変化,繁殖期およ び内部成長線を調査し,本個体の基本生活史を明 らかにすることを目的とした.また,同所的に生 息するウミニナBatillaria multiformis (Lischke, 1869) やヘナタリCerithidea cingulate (Gmelin, 1790)の生態やこれらとの種間関係の調査も同時 に行い,比較・検討した.鹿児島市喜入町を流れ る愛宕川の河口干潟には,小規模ながらメヒルギ Kandelia candel やハマボウHibiscus hamabo から なるマングローブ林が広がっており,周辺の干潟 泥上には多くの巻貝類が生息している.調査は 2010年2月から2011年1月までの期間に毎月1 回,大潮または中潮の日の干潮時に上記干潟にて 行った.50 × 50 cmの方形区(コドラート)を干 潟上の任意の3地点に設置した後,その範囲内に 出現した全ての巻貝を採集し,サイズ測定用のサ ンプルとして持ち帰った.また,河口付近の別地
点にてフトヘナタリのみを幼貝から成貝まで毎月 30個体ほど採集し,内部成長線観察用のサンプ ルとして同様に持ち帰った.採集した全ての巻貝 を冷凍保存した後に肉眼および顕微鏡で同定し, 出現個体数を記録した.サイズ測定用サンプルに おいて,フトヘナタリに関しては殻幅を,それ以 外の巻貝に関しては殻長を,ノギスを用いてそれ ぞれ0.1 mmの精度で計測し,記録した.フトヘ ナタリは成貝になると殻頂部が失われることが多 いので,他の巻貝とは異なり殻幅を記録する.ま た,内部成長線観察用サンプルにおいては,さら に肉抜き・研磨・薬品処理による染色を施した後, 双眼実体顕微鏡により内部成長線を観察し,デジ タル顕微鏡により写真撮影を行った.その結果, フトヘナタリとウミニナに関しては,年間を通じ て各月の個体の出現傾向がよく似ており,どちら も3–5月にかけて,個体数が増加し,6月になる と激減していた.しかし,ヘナタリに関しては, フトヘナタリやウミニナに比べて遥かに出現個体 数が少なく,各月の採集量は年間を通じて低い水 準を保っていた. また,フトヘナタリは殻幅3 mm前後,ウミニ ナは殻長9 mm前後,ヘナタリは殻長6 mm前後 の稚貝が10–11月に出現することから,夏季に産 卵期があり,秋季に個体の新規加入が起こってい るということが明らかとなった.このため,この 時期のサイズ頻度分布は双峰型の形状となってい る.さらにこれらの稚貝は冬にかけて大きく成長 し,概ね春から夏にかけてサイズのピークを迎え ていた.発見された個体数を採集地点ごとに比較 すると,フトヘナタリが内陸の乾燥した干潟上で 多く採集されたのに対し,ウミニナ・ヘナタリは 川の支流に近く,比較的水気を多く含む泥上の干 潟で大量の個体が採集された.特にウミニナにおいてはそれが顕著に表れていた.フトヘナタリの 内部成長線に関しては,染色を施すと断面部の石 灰質が桃色に染まり,肉眼で確認できるほどの太 い層をなす成長線と微視的に認識できるレベルの 微細成長線が観察された.その合計本数は殻幅 10 mm前後の個体で3–4本,8 mm前後の個体で 2–3本という結果となり,季節に関係なく出現す ることから,一般的に殻幅が大きい個体ほど内部 成長線の本数も多くなる傾向があることが分かっ た.従って,これらの観察を行うことで,その貝 の年齢や環境要因を調べることができると考えら れる. -
冨山清升・庄野 宏 . 数理データサイエンス教育を鹿児島大学の全学必修化導入に至る経緯と今後の見通し . 第68回九州地区大学教育研究協議会発表論文集68 ( 1 ) 158 - 160 2020年3月
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担当区分:筆頭著者 記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(研究会,シンポジウム資料等) 出版者・発行元:九州地区大学教育研究会
《発表:数理・データサイエンス部会》
数理データサイエンス教育を鹿児島大学の全学必修化導入に至る経緯と今後の見通し
鹿児島大学共通教育センター 冨山清升・庄野 宏
「数理データサイエンス」の立ち上げの問題
総理大臣直轄の教育再生諮問会議における第11次答申に基づき、「数理データサイエンス」を、小中高大学において、文系理系を問わず必修科目として履修させることが閣議決定された。背景には、AIやビックデータの処理で米国・中国に先行された産業界の強い焦りがあるとされている。それを受けて、全国の大学では、既に取り組みが始まっている。全国の拠点大学6校(北大・東大・京大・滋賀大・阪大・九大:九州地区は九州大学が主導)に加え、協力大学20校が始めている。
鹿児島大学の2019年5月段階での状況
2019年4月の段階で、先行する国立大学では、早い大学では4年前から数理データサイエンス教育の導入が図られており、九州地区の複数の国立大学でも、パイロット授業が試験導入の形で数理データサイエンス教育が始まっていた。2019年5月に大分で開催された「12大学教養教育実施組織代表者会議」「国立大学教養教育実施組織会議」においても、全国の国立大学の多くでの数理データサイエンス教育の導入の状況が判り、鹿児島大学の導入の遅れが浮き彫りとなった。
これらの状況を受け、鹿児島大学で速やかに数理データサイエンス教育の全学必修化を実現するにはどのような方策が適切か検討を始めた。過去に、同様な低学年次の必修科目として「初年次教育」の導入が図られた経緯があった。この場合、新たな科目を全学で立ち上げる事態となり、「教養セミナー」の名称で開始した新科目は、約3年間かけても全学必修化ができなかった。その後、学長交代によって遅れたという事情もあったが、新規に企画した「初年次セミナー」も全学必修化の導入に至るまでに約2年間を要したという先例があった。鹿児島大学は、理工系7学部、文系2学部を擁する総合大学のため、全学部の了解を得るためにはかなりの時間を要する。このため、数理データサイエンス教育を全学必修化で導入するにあたっては、かなりの準備期間が必要であることが予測された。また、2019年夏に公表され、約1年間かけて修正が行われるという「統計学の専門教員のいない大学を念頭に置き、文系の先生でも誰でも教えられるモデル案」を導入せざるを得ない状況に至る前に、独自の授業展開を行う必要性もあった。このため、今回は、(1)新たな科目は立ち上げず、既存の科目を利用する、(2)全学必修化に至る手続きには約1年以上の期間が見込まれるため、パイロット授業を先行して始めておく、という手段を採ることになった。
先行してパイロット授業として、共通教育科目で開講しておく。
共通教育課程の利用出来そうな全学必修の既存科目は、下記の5科目であった。「異文化理解」=語学が主体であり、DS教育と相性の合う内容ではない。「大学と地域」= 地域産業等の地域分野であり、DS教育と合う内容ではない。「初年次セミナー」=文理混在クラスで、クラス内学生の理解レベルが異なり過ぎ、DS教育を行うには不適当。「情報活用」=一部内容がDS教育と重なるため利用可能。担当教員もこの分野の専門家である。「基礎統計学入門」=教授内容がDS教育と重なる。多くの理工系学部が必修もしくは選択必修指定している。以上の条件から、「情報活用」と「基礎統計学入門」をDS教育に利用する検討を始めた。
まず、全学の70%強を占める理工系でほぼ全学で教えている共通教育科目の「基礎統計学入門」に「数理データサイエンス教育」を2020年4月からパイロット授業として組み込む。残りの30%弱の文系には、理工系学部も含め、全学必修科目「情報活用基礎」に「数理データサイエンス教育」の内容を3コマ程度組み込むことにした。
全学必修化を、全学に諮問する。
DS教育への全学対応としては、公式に執行部会で取り上げていただき、各学部長を通して、DS教育の全学必修化を各学部に諮ってもらう要請を行った。前例にならえば、この作業で1年間程度は要すると予測された。全学での必修化が承認された段階で、先行していたパイロット授業を、公式に「全学必修化科目」に格上げする手順を想定していた。
急転直下で全学必修化の導入が決定
教育担当理事の尽力により、2019年7月19日(金)の大学本部の執行部懇談会において、DS教育を全学必修化し、2020年4月から開始することが、決定された。学長の判断に基づく、異例の速さでの決定であった。
この時点で、全学「実験科目等分科会」において「基礎統計学入門」をDS教育に活用することが5月の段階で既に承認されていた。全学必修化の方針決定を受け、全学「情報科目分科会」において「情報活用」の一部コマにDS教育を組み込むことが承認された。「情報科目分科会」が全学のDS教育の受け皿委員会として機能することを模索することになった。パイロット授業として計画していた授業を、公式に「数理データサイエンス教育」の実施科目とする道筋が定まった。この後の事務的な手続きとして、全学部でDS教育の必修化が了解された後、執行部の研究教育評議会で承認を経て、鹿児島大学としての機関決定となる予定である。
DS教育の全学必修を受けた新たな教育の展開
DS教育を鹿児島大学に導入していくに当たって、新たな方針を立てた。これは、文科省の方針でもある、初年次から専門課程までの積上方式を想定している。
A. 全学必修科目となっている「情報活用」の3コマ程度を数理データサイエンス教育の初歩的内容とする。この結果、全学部の学生が1年時に2~4コマ程度のDS教育を受講することになる。
B. さらに、全学の理工系学部でのほとんどで受講させている「基礎統計学入門」の内容をDS教育の発展的内容と位置づける。
C. 各学部においてより専門的なDS教育を行い専門的内容とする。既に工学部では、2020年度から、DS教育の専門的な教授内容を全学部で必修化することが決まっている。
鹿児島大学おける今後のDS教育の展望
上記の、DS教育の初歩的内容と発展的内容に関しては、2020年度からの導入が決定され全学展開が可能な状況であるが、今後は各学部で行われるDS教育の専門的内容の教育展開をどのようにしていくべきなのかが問われている。大学において、数理データサイエンス分野の専門家を養成していくという文科省の方針からすると、各学部で展開されると予想されるこのDS教育の専門的内容が、実質的なDS教育に位置づけられる。しかしながら、鹿児島大学においては、DS教育の専門的内容の実施を具体化させている学部は工学部のみである。今後、全学の9学部がどのようにDS教育の専門的内容を展開していくのか、計画の策定が待たれる。
DS教育の全大学における全学必修化の方針の下、その専門的教育を担う中核分野である統計学教員の圧倒的な不足を、大きな問題点として挙げることができる。全国的に統計学の教員の引き抜きが激化している状況は否めない。鹿児島大学においても、理学部数理情報科学科には統計学講座があり、伝統的に統計学の人材を養成してきた伝統があった。しかしながら、定年退職と全国からの教員引き抜きによって、8名おられた統計学の教員が2019年10月現在、1名に激減してしまった。鹿児島大学の教養教育を担っている共通教育センターには2名の統計学の専門教員が所属していたが、2019年10月現在ゼロ名となり、DS教育の中心となるべき統計学の講義を非常講師に依存するという状況に陥っている。本原稿も、約半分は、DS教育の具体的内容で執筆される予定であったが、統計学教育の急な異動によって、導入の経緯の紹介しか出来ない状況に立ち至った。鹿児島大学では、今後、統計学教育の早急な立て直しが求められている。 -
冨山清升・今村隼人 . 薩南諸島の軟体動物の生物多様性と外来種貝類による影響 -鹿児島県薩南諸島に生息する国内外来種ウスカワマイマイ類の種内変異について . 南太平洋海域調査研究報告 61 ( 1 ) 62 - 63 2020年3月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:鹿児島大学島嶼圏研究センター
1.はじめに
陸産貝類は移動能力が乏しいため、局所的に特殊化する傾向が強い。この傾向は特に島嶼域において著しく、島ごとに固有種が存在することも多い。そのため、生物地理学の研究において、有益な情報を与えると考えられる動物群である。ウスカワマイマイ(Acusta despecta)は、全国的に広く分布する最も普通種の陸産貝類であり、日本固有種の中で唯一例外的に農業害虫としても認識されている。
ウスカワマイマイの生息地は田畑や草原などであるが、本来の生息地は、林縁部や河川敷等の攪乱地環境に生息する種であった。また、ウスカワマイマイは、作物や苗に付着した移動によって、全国的に広がっており、国内外来種しての側面も持っている。
2.材料と方法
ウスカワマイマイの原名亜種は、オキナワウスカワマイマイAcusta despecta despecta (Sowerby, 1839)であり、本亜種は生息地の沖縄から記載されている。他にウスカワマイマイの亜種には、奄美群島に分布するとされているキカイウスカワマイマイAcusta despecta kikaiensis (Pilsbry, 1902)、大隅諸島~鹿児島県南部に分布するとされているオオスミウスカワマイマイAcusta despecta praetenuis (Pilsbry et Hirase, 1904)、日本本土に分布するウスカワマイマイAcusta despecta sieboldiana (Pfeiffer,1850)、長崎県壱岐島に生息するイキウスカワマイマイ Acusta despecta ikiensis (Pilsbry et Hirase, 1904)の計5亜種が記載されている。本研究では、イキウスカワマイマイを除いた鹿児島県薩南諸島に生息する4亜種を研究対象とした。
今回、ウスカワマイマイの亜種の分類学的位置関係を確認するために、遺伝的・形態的見地からアプローチを行った。まず、鹿児島県以南のウスカワマイマイ亜種を用いて、mtDNAのCOI領域の塩基配列を求め、本土域と各島嶼域における個体群(①喜界島、②奄美大島、③沖永良部島、④屋久島、⑤鹿屋市、⑥種子島、⑦中之島、⑧与論島、⑨宝島、⑩口之島、⑪薩摩川内市、⑫鹿児島市、⑬悪石島、⑭南九州市、⑮西表島、⑯姶良市)間の類縁関係について分析を行った。そして、塩基配列を元に、近隣結合法を用いて各個体群のグループ分けと系統解析を行った。次に、鹿児島県以南のウスカワマイマイ亜種を用いて殻の形態解析を試みた。なお、用いたサンプルの採集地はDNA解析で用いたサンプルと同様の地点である。解析には、デジタルカメラ(Canon IXY650)で撮影した殻のデジタル画像と、画像計測ソフトウェア(MicroMeasure)を用いた。計測方法は、以下の2通りで行った。まず1つ目は、Kameda et al.式計測方法である。H:殻高、D:殻径、AH:殻口高、AW:殻口幅、IL:内唇の長さ、SH:螺塔の高さ、SW:螺塔の幅、H/D、AH/H、AW/Dの10項目の変数を用いて、各個体群間の殻形態に基づく類似距離を算出した。個体群間の距離は、各変数の平均値間のユークリッド距離で求め、この数値に基づいてクラスター分析を行い、各個体群のグループ分け(デンドログラム作成)を行った。なお、本研究では群平均法を採用した。もう1つは、Urabe式計測方法である。SW:殻幅、 PWW:第二体層幅、TWW:第三体層幅、PWL:第二体層長、TWL:第三体層長、AL:殻口長、AW:殻口幅、W:螺塔の拡張率、T:螺塔の変化率、S:殻口の真円度の10項目の変数を用いて平均値を算出し、各個体群間の殻形態に基づく類似距離をユークリッド距離で求め、クラスター分析(群平均法)を行い、各個体群のグループ分け(デンドログラム作成)を行った。
3.結果
DNA解析結果では、4亜種とされている複数個体群が、それぞれの亜種でまとまったクラスターを形成せず、従来認められていた亜種分布とは全く矛盾する結果となった。個体群間の系統関係はまちまちであり、いくつかの亜種に分けることは不能であった。すなわち、遺伝子レベルではウスカワマイマイに属する4亜種を系統分類学的に認知することができない。殻の解析結果でも、いずれも亜種ごとの計測値はまちまちで、4亜種はそれぞれまとまったクラスターを形成しなかった。殻の形態としてはやはり連続的であり、断定的な違いが無かった。なお、各地域間の類似距離は地理的距離を全く反映していなかった。
4.考察
DNA解析結果が以上のようになった理由として、ウスカワマイマイは国内外来種としての側面もあるため、苗木等に付着し、そのまま頻繁に船舶などで移動し、全国各地で交雑している可能性が高い。殻の解析結果については、主に個体差が原因として考えられる。また、DNA解析結果と同様、各亜種が他地域に移入し、交雑が頻繁に起きている可能性も考えられる。さらに、本種は幼貝と成貝の区別がつきにくいということも原因の1つとして考えられる。今後は、ウスカワマイマイの生殖器の解剖、及び交配実験を行っていく必要があるだろう。
また、近縁種との交雑も懸念されるため、ウスカワマイマイと形態的に類似し、分布域が重複しているタママイマイAcusta tourannensis (Souleyet, 1842)、タマゴヤマタカマイマイEulota mighelsiana (Pfeiffer, 1846)を遺伝的・形態的見地からアプローチし、系統分類学的に再検討し直す必要があると考えられる。 -
永田祐樹・水元 嶺・冨山清升 . いちき串木野市の大里川干潟におけるタマキビガイ 3 種の生活史, および精子の集団遊泳の観察記録 . Nature of Kagoshima45 ( 1 ) 265 - 272 2019年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
潮間帯とは,潮の干満により水没と乾燥を繰 り返す場所で,温度,湿度,塩分,光量などの環 境条件の変化が急激で大きく,それに耐性を有す る生物からなる独自の生物群集が成立する.本研 究では,鹿児島県いちき串木野市大里川河口の潮 間帯において,タマキビガイ3種の殻高サイズ頻 度分布の季節変動を追うことにより,各々どのよ うな生活史を持つ種であるかを目的とした.本研 究の調査対象は,タマキビ科Littorinidaeのタマ キビLittorina brevicula (Philippi, 1844),アラレタ マキビNodilittorina radiate (Souleyet in Eydoux & Souleyet, 1852),ヒメウズラタマキビLittoraria intermedia (Philippi, 1846) の 3 種である.2017 年 12月から2018年11 月までの毎月1回,大潮ま たは中潮の日中の干潮時刻前後に大里川河口の潮 間帯上部に位置する石積護岸で調査を行った.毎 月各々約50個体を見つけ取りにて採取した.そ の後,研究室に持ち帰り,冷凍し乾燥させた後, 殻高・殻幅(mm)のサイズ測定を行い,記録した. ヒメウズラタマキビに関しては,生殖腺の観察も 同時に行った.サイズ頻度分布から,3種のうち,
タマキビに関しては,6月から8月の夏季に新た な個体が新規加入したと考えられるが,残りの2 種に関しては,1年を通してほとんど一定であっ た.これは,採取の際に個体のサイズが偏ったこ とやサイズによって生息地が異なる傾向があると いったことが考えられる.生殖腺観察では,卵子 は夏季を除く9ヶ月間で,精子は5月から7月の 個体から観察できたため,夏季に繁殖活動を行っ ていると考えられる.このことから,ヒメウズラ タマキビにおいても,夏季に新たな個体の新規加 入があると推測することが出来る. -
安永洋子・冨山清升・井上康介・国村真希・田上英憲 . 鹿児島県喜入町と市来町の干潟におけるウミニナ Batillaria multiformis のサイズ頻度分布の季節変化と生活史比較 . Nature of Kagoshima45 ( 1 ) 109 - 115 2019年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
鹿児島県喜入町の愛宕川河口干潟には,ウミ ニナBatillaria multiformis (Lischke),カワアイ Cerithideopsilla djadjariensis (K. Martin),へナタリ Cerithideopsilla cingulata (Gmelin),フトへナタリ Cerithidea rhizophorarum (A. Admas)の4種のウミ ニナ類の巻貝が生息している.ウミニナは,北海 道以南に分布するウミニナ科に属する巻貝であ り,泥中に紐状の卵鞘を産み,ベリジャー幼生が 孵化するプランクトン発生の生活史をとる.これ まで,ウミニナについては,発生様式,生態分布 については研究されてきたが新規加入時期などの 生活史についてはあまり研究されていない.本研 究ではウミニナの生活史を明らかにするのを目的 の1つとして,鹿児島県喜入町愛宕川と,鹿児島 県いちき串木野市大里川の2つの異なる環境での 生息密度の比較を行うとともに,喜入町愛宕川で はウミニナのサイズ頻度分布の季節的変化につい ても調査した. サイズ頻度分布調査は毎月行い,愛宕川の河 口干潟において,干潮時に,目視でウミニナをラ ンダムに100個体以上採取し,殻高をノギスを用 いて0.1 mm単位で計測した. その結果,1年を通して喜入では15.1–18 mm
をサイズピークとする一山型のグラフであり,9 月に10 mm前後の幼貝が現れ,9–11月まで二山 型のグラフとなった.12月には4.1–5 mmの個体 が現れ,三山型のグラフとなった.9月に現れた 個体は9.1–10 mmにあったサイズピークが12月 にかけて11.1–12 mmに成長すると予測された. また,2007年9月の各調査地におけるウミニナ のサイズ頻度分布調査では,喜入では16.1–17 mmをサイズピークとする山型のグラフであり, 平均個体サイズは16.8 mmとなった.市来では 10.1–11 mmをサイズピークとするグラフで,平 均個体サイズは15.01 mmとなった. 生息密度調査では2007年9月に1回,各調査 地において50 cm × 50 cm区画をランダムに10区 画用意し,区画内の目視可能なウミニナの出現個 体数を記録した.その結果,10区画の生息密度 の平均が喜入では56.9個体,市来では97.5個体と, 喜入よりも市来のほうが生息密度が高く,密度差 も高いという結果が得られた. -
井上康介・冨山清升・中島貴幸・片野田裕亮・安永洋子 . フトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum の生態学的研究 — マングローブ林周辺におけるサイズ頻度分布の季節変化 — . Nature of Kagoshima 45 ( 1 ) 117 - 122 2019年5月査読
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌)
要旨
フトヘナタリCerithidea rhizophorarum (A. Adams, 1855)は,東北地方以南,西太平洋各地に分布す るフトヘナタリ科に属する雌雄異体の巻貝であ り,アシ原やマングローブ林の干潟泥上に生息し ている.鹿児島市喜入町を流れる愛宕川の河口干 潟にはメヒルギKandelia candel (L) Druceやハマ ボウHibiscus hmabo Sieb. et Zucc.からなるマング ローブ林が広がっており,周辺の干潟泥上にはフ トヘナタリが生息している.本研究では,フトヘ ナタリのサイズ頻度分布の季節変化を調査し,生 態学的特長を調べるとともに武内(2005),中島 (2007)の報告と比較し,フトヘナタリの生活史 を考察した. まず,2007 年 1 月~2007 年 12 月の期間に毎 月1回,大潮か中潮の日の干潮時に,各調査区に おいて,フトヘナタリをランダムに100個体以上 採取し,殻幅を記録した.その結果,6月まで殻 幅のサイズピークが9.1–11.0 mmだったものが7 月からサイズピークに変化が見られた.さらに, 喜入調査区において2007年は目立った新規個体 の参入時期がないことがわかった.中島(2007) の報告と比較したところ,新規個体参入に関して
は違いがあったが,繁殖時期と成長パターンはほ ぼ同じであると考えられた -
橋野智子・冨山清升 . 桜島袴腰の転石海岸におけるイシダタミガイ (Monodonta labio confusa) の生態学的研究 —ω 指数を用いた共存する複数種の巻貝類の種間関係の分析 — . Nature of Kagoshima 45 ( 1 ) 135 - 146 2019年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
鹿児島県の桜島には溶岩によって形成された転 石海岸があり,その潮間帯には数mの岩から数 cmの小石まで様々な大きさの転石が存在する.そ して,転石層の厚さも下層の砂が見える程度から 数10cmの深さまで潮位やその場所によって異な り,潮間帯の環境は変化に富んでいる. 本研究では,この転石海岸で比較的多く見られ る巻貝の生態学的研究の一環として,桜島袴腰海 岸におけるイシダタミ(Monodonta labio confuse) 個体群の1月ごとのサイズ頻度分布と季節ごとの 密度を調査し,イシダタミガイの生態を明らかに することを目的とした.イシダタミガイは潮間帯 の転石帯の転石の下などに生息している巻貝であ る.北海道以南に分布する. サイズ頻度分布調査は2007年1月から2008年 2月まで月に1回,潮間帯で100個以上採集し, 殻高を測り,生活史を調べた.イシダタミガイの 新規個体加入のピークは2007年4月と2007年12 月から2008年2月にあったが,3・5・6・11 月に も少数ではあるが加入していた.夏はサイズピー クが6から9月にかけて8 mmから1 mmずつ大き くなった.
5月,8月,10月,12月に生息密度調査を行い, 季節ごとの垂直分布を調査した.イシダタミガイ は潮間帯の中部上から下部まで広く分布していた. 5月は中部上に中部下よりも小型の個体が現れた. 8月は中部下に中型,大型の個体が集中し,中部 上の小型の数は中部下より多かった.10月は中型, 大型は中部下に分布し,小型は中部上に分布して いた.12月は下部に小さい個体が集中し,中型, 大型の個体は中部上に分布していた.中部上では 10月に密度が低くなるが,12月には高くなってい た.中部下では8月の密度が最も高く12月にかけ て低くなった.下部では10月から12月にかけて 急激に密度が高くなった. イシダタミガイ-シマベッコウバイの種間関係 は,ω指数が±0.5以内であることから,ほぼ独立 分布であり,その傾向は5から12月にかけて重な る分布に近づいた.イシダタミガイ-カヤノミカ ニモリは8月と12月に排他的分布に近くなった. カヤノミカニモリは8月に中部上で多く,12月に 中部下で多い.一方,イシダタミガイは8月で中 部下に多く,12月で下部に多い.イシダタミガイ の生殖に伴われる移動が,8・12月において,排 他的分布を示す原因の1つであると考察した. -
谷口明子・冨山清升・大滝陽美・鈴鹿達二郎・福留早紀 . 鹿児島県喜入のマングローブ林干潟における フトヘナタリ Cerithidea rhizophorarum の木登り行動 . Nature of Kagoshima45 ( 1 ) 151 - 161 2019年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
フトヘナタリCerithidea rhizophorarumは,東北 地方以南,西太平洋各地に分布するフトヘナタリ 科に属する雌雄異体の巻貝であり,アシ原やマン グローブ林の干潟泥上に生息している.鹿児島市 喜入町を流れる愛宕川の河口干潟にはメヒルギ Kandelia candelやハマボウ Hibiscus hamaboからな るマングローブ林が広がっており,河口域の干潟 ではフトヘナタリが広く生息しているため,木登 り行動が容易に観察できる.本研究では愛宕川河 口干潟において,フトヘナタリの木登り行動につ いて調査した. 調査区内のメヒルギが多く生息する区域におい て,大潮干潮時のフトヘナタリの木登り個体数を 毎月調査した.その結果,繁殖時期の6月から9 月には主に干潟上に生息しており,その後徐々に 樹上に移動して10月に最も多くなり,その後減少 して春先にかけて再び干潟に下りる個体が増える という傾向が認められた.また,上記の研究から, フトヘナタリは特定の木に登る傾向が強いこと, 木1本当たりの木登り数が多い地域があることが 分かった.その他,メヒルギの気根数と木登り個 体数の木登り個体数の関係から,木の直径と木登 り個体数には相関が無いことも明らかになった.
木登り行動について,夏期の小潮時に,マング ローブ林内のメヒルギに登る個体数を25時間1時 間毎に観察し,日周期変化を調べた.その結果,1 日の中で潮汐の動きと関係して木に登り下りして いた. 同じ個体が同じ木に登り下りしているのかどう かを調べるために,マーキングをしてその後8日 間追跡調査した.その結果,フトヘナタリは数日 間同一の木の周辺に留まる傾向があった. 木登りをしやすい個体と木登りをしにくい個体 がいるのか調べるために,マーキングをしてその 後8日間追跡調査を行った.その結果,木登りを しやすい個体としにくい個体の存在が明らかにな り,複数のエコタイプの存在が示唆された -
前園浩矩・冨山清升 . 鹿児島県桜島袴腰海岸における クジャクガイ Septifer bilocularis (Linnaeus, 1758) の生活史調査 — 殻の外部生長線解析に基づく年齢推定 — . Nature of Kagoshim45 ( 1 ) 167 - 175 2019年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshim
要旨
クジャクガイSeptifer bilocularis (Linnaeus, 1758) はイガイ目イガイ科の二枚貝で,房総半島・能登 半島以南,熱帯インド・西太平洋の潮間帯から水 深10mまでの岩礁に分布する.クジャクガイの生 態はこれまでほとんど研究例がない.そのため, 本研究では本種の基礎生態についてサイズ頻度分 布と年齢構成,年齢頻度分布を調査し,生活史を 明らかにすることを目的とした.調査は鹿児島県 鹿児島市桜島袴腰海岸の潮間帯中部の下で行った. 2008年2月から2009年1月にかけて毎月1回大 潮の干潮前後に50 cm × 50 cmのコドラートを3ヶ 所設置し,コドラート内のイガイ類を全て採集し た.採集した個体は冷凍した後分類し,ノギスを 使って殻長を0.1 mmまで計測し,1 mmあたり2 個体ずつ肉眼または顕微鏡を使い年輪解析を行っ た.クジャクガイ以外のイガイ類は個体数が少な かったため,本調査では除外した. サイズ頻度分布から,3.0 mm以下の新規加入個 体は6月から10月にかけてだと推定された.2–5 月は21.1–27.0 mmにピークが出る一山型のグラフ になり,6–11月は12.0 mm以下の割合が増えて多 山型に,1月は2–5月と同様の一山型のグラフに
なった.サイズ頻度分布には1年周期の周期性が 見られた.サイズピークは21.1–27.0 mmに出るこ とが多かった.この結果と,同じイガイ科の Dreissena polymorphaが3–4 mmに達するには産卵 から定着まで18–28日を要し,定着からさらに1ヶ 月を要することから,新規加入個体は4月下旬か ら9月中旬に産卵された個体だと考えられる.年 輪解析の結果,殻長は年齢に有意に相関を示した. 6歳以上は個体数が少なく,あまり見つからなかっ た.年齢が一定以上になると成長率が落ちている ように見えるが,この調査結果からは断定できな い.新規加入個体が採集された6–11月は,0歳の 個体が他の月に比べて大きな割合を示した.0歳 の個体はほとんどが9.0 mm以下で見つかった.サ イズ頻度分布のピークは何れかの年齢のサイズ頻 度分布のピークと重なることが多かった.年齢頻 度分布には1年周期の周期性が見られた.6月に 6.1–9.0 mmの0歳の個体が見つかったことについ て,Dreissena polymorphaの例から,産卵は2月下 旬か3月上旬に開始されているか,前年の産卵期 の終盤に産卵された個体が,年輪が確認できない 大きさで越冬した可能性がある.多年生であるク ジャクガイのサイズ頻度分布に複数のピークが生 じにくく,3歳までは年齢が上がるほど個体数が 多く,4歳以上では年齢が上がるほど少なくなる のは,年齢とサイズによって定着のしやすさ,そ して生存率に差があるためとだと考えられる. -
岩重佑樹・冨山清升・川野勇気 . 鹿児島県桜島袴腰海岸におけるアラレタマキビの サイズ頻度分布の季節変動 . Nature of Kagoshima45 ( 1 ) 177 - 181 2019年5月
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記述言語:英語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
アラレタマキビNodilittorina radiata (Souleyet in Eydoux & Souleyet, 1852)はタマキビ科Littorinidae に属する雌雄異体の巻貝である.アラレタマキビ は潮間帯の飛沫帯に生息しており,晴天時には殻 は乾燥して灰白色をしている.また雨天時には, 雨水でできた水溜りの中に多く付着している.タ マキビ科の中でもアラレタマキビの基礎生態に関 する報告例は少ない.本研究では鹿児島県桜島の 袴腰海岸において,アラレタマキビの殻長サイズ 頻度分布を調べ,その季節変動から基本的生活史 を明らかにすることを目的とした.調査は鹿児島 県桜島の転石海岸である袴腰海岸で行った.2009 年の1月から2009年の12月まで毎月一回大潮ま たは中潮の日中の干潮時刻前後に同一の岩石の上 で行った.毎回アラレタマキビを100個体以上採 取し,ノギスで殻長を0.1 mm単位まで計測し,記 録した.調査の結果,5月から9月まで稚貝と見 られる1.0 mm前後のサイズの個体が採取できた. 秋季から冬季の間に採取された個体のサイズにあ まり変化はなく,1月から3月の間は採取された 個体は全て1.5 mm以上のサイズであった.サイズ が1.5 mm前後の個体は年間を通して採取できた.
その個体数は春季から夏季にかけて多くなる傾向 があり, 8月にピークを迎えた後,急速に減少した. それに比べ,6月から8月までの夏の期間を除く 全ての月で採取された3.0 mm以上の個体では急激 な変化はみられなかった.また,年間を通して調 査地内の個体数に著しい変化は無かった.以上の ことより,袴腰海岸に生息するアラレタマキビの 寿命は少なくとも1年以上であり,稚貝の新規加 入は年に一回夏の時期であると考えられる.その 後,稚貝は12月までに1.5 mm以上まで成長し, 越冬する傾向がある.また,大きなサイズよりも 小さなサイズのほうが成長するスピードが速いこ とより,サイズ別に成長のスピードが変化するこ とや,小さなサイズだけにみられた夏季から秋季 にかけて急速に成長し,その後安定するといった 同じサイズ内でも成長のスピードが季節によって 変化することがわかった. -
山角公彦・冨山清升・吉本 健 . 鹿児島県桜島袴腰海岸におけるゴマフニナの生活史 — 精子と卵子の形成季節と性比の検討 — . Nature of Kagoshima45 ( 1 ) 183 - 188 2019年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
ゴマフニナPlanaxis sulcatus (Born, 1778)は,盤 足目ゴマフニナ科に属する巻貝で,房総半島以南, インド,西太平洋域に分布し,潮間帯下部の岩礁 上に生息している.本種の生態に関する研究例は まったくない.本種がどのような生活史を持つの かほとんど分かっていない.このため,本研究で は鹿児島県桜島袴腰海岸において,ゴマフニナの 生活史を明らかにすることを目的とした. 2010年12月~2011年12月まで,毎月大潮時 に鹿児島県桜島袴腰海岸の潮間帯で50 cm × 50 cm のコドラートを用いて, 3か所でサンプルを採取し, ノギスを用いて殻長を測った.持ち帰ったサンプ ルは,冷凍保存しておき,2011年5月~2011年 12月の各サンプルの中から,ランダムに20個体 を選び,光学顕微鏡を用いて雌雄の性比を調査し た.2011年6月~2011年8月において,繁殖期に おけるメスとオスの殻長平均値の差を調査するた めに,独立変数を雌雄,従属変数を殻長とし,t検 定を行った.サイズ頻度分布から,夏にかけてグ ラフのサイズピークが大型サイズへ移行している ことがわかった.また,2011年10月と2011年12 月には新規個体群と思われるサイズの小さな個体
群が確認できた.生殖腺観察から,6月,7月,8 月にかけて精子が見られた.その他の月では,卵 子が観察されるか,配偶子がまったく観察されな かったかのどちらかであった.t検定より,雌雄間 での殻長差に有意性がないことが分かった.本種 は,生殖腺観察から精子が確認できたのは6–8月 の間だけだったことから,この時期に生殖を行なっ ていると思われる.その後,10月くらいから,新 規個体群が加入してくる.11 月のサイズ頻度分布 に小さな個体群が見られないのは,調査時の見落 としなどのサンプリングエラーよるものだと思う. 精子が見られない時期での,卵子の確認,9月が 卵子だけ確認できたことは,精巣と卵巣の成熟の タイミングが異なることや,雌雄の生息域が異な ることでメスだけが採取された,また時期によっ て雌雄間で性転換が行われる可能性がある. -
水元 嶺・永田祐樹・冨山清升 . 鹿児島県いちき串木野市大里川河口干潟におけるウミニナのサイズ組成および微細内部成長線分析 . Nature of Kagoshima45 ( 1 ) 311 - 318 2019年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
本研究では,鹿児島県いちき串木野市大里川河口干潟に生息する腹足類,ウミニナBatillaria multiformisにおけるサイズ頻度分布および性比の季節変化を調査し,生活史を明らかにすることを試みた.さらに,貝殻内部成長線分析による年齢査定の可能性を検討した.3月を除き,年間を通して,殻高23~25 mmにサイズピ-クを持っていた.潮間帯を上部(石積護岸)と下部(砂泥底)に区分して採集を行った結果,小さな個体は下部に,大きな個体は上部に分布する傾向が見られた.卵を持つ雌個体は確認されたが,精子を持つ個体は1個体も確認できなかった.滑層瘤切断面における内部成長線レプリカの観察によって,ある程度の精度であれば,微細内部成長線を観察・計測することができた.この成長線が潮汐周期によって形成されると仮定して,滑層瘤の形成開始からの経過時間を算出した結果,分析した個体は6年1か月が経過していると大まかに予想された.内部成長線分析を年齢査定に適用するには,分析処理と観察手法においてなお大きな改善が必要であることは明らかであるものの,本研究において,微細内部成長線分析の可能性が示されたことは,内部成長線分析による巻貝の年齢査定の実現するうえで重要な一歩であるといえるだろう.
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上村まこ・村永 蓮・冨山清升・高田滉平 . 鹿児島湾喜入マングロ-ブ干潟において 防災設備事業により破壊された巻貝類の生態回復 . Nature of Kagoshima45 ( 1 ) 297 - 310 2019年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
要旨
鹿児島湾喜入町愛宕川支流の河口に位置する 喜入干潟は,太平洋域における野生のマングロ- ブ林の北限地とされ,腹足類や二枚貝をはじめ多 くの底生生物が生息している.しかし,2010年 から道路設備事業の工事が始まり,喜入干潟の一 部が破壊され,干潟上の生物相が大きな被害を受 けた.この干潟の破壊が干潟上の生物相にどれほ どの影響を与えているか調査する必要があり研究 することと至った.干潟は河川が運んだ土砂が河 口付近や湾奥などの海底に堆積し,干潮の際に海 面上へ姿を現したものであり,水質浄化や生物多 様性の保全など重要な役割を持った環境である. 日本の干潟は,全国で過去60年の間に40%が失 われた(花輪,2006).干潟は遠浅で開発がしや すいことから,埋め立てや開拓の対照になってき た.これらの,一度消失した干潟は自然に回復す ることは難しく,人工的な再生では持続的な生態 系を維持することは困難である.喜入干潟には非 常に多くの巻貝類が生息している.その中でも, 主にウミニナBatilla multiformis (Lischke, 1869), ヘナタリCerithidea (Cerithideopsilla) cingulate (Gmelin, 1791),カワアイCerithidea (Cerithideopsi
lla) djadjariensis (K. Martins, 1899)が多く生息して いる.採取も容易で個体の移動も少ないことから, この三種を環境評価基準生物として研究に用い た.種の同定を行う際,ヘナタリとカワアイの幼 貝が目視で判別することが極めて困難であるた め,今研究ではこの2種をヘナタリの仲間として まとめた.防災道路設備事業が巻貝類の生態へど れほど影響するかを比較するため,二つの調査地 点を設置した.一つ目は干潟上に建設されている 橋の真下でStation A,二つ目は工事による直接的 な影響をあまり受けていないと思われる愛宕川支 流の近くでStation Bとした.調査は2018年3月 から同年の12月まで行った.毎月1回採取した ウミニナとヘナタリの仲間について,各月ごとの サイズ別頻度分布,個体数の季節変動をグラフに して生態の変化について研究した.結果として, 今研究では一部のみ個体数の増加がみられたが, 2012年以降大きく減少し続けていることから個 体群の消滅の可能性がないとは言えない.また, 次世代を担う新規加入個体の大きな増加がみられ ないことからStation AではStation Bよりも生態 が回復するまでに,まだ時間を要するのではない かと推測される.さらに,各月の両地点の個体数 を比較すると,ウミニナはStation Aに,ヘナタ リの仲間はStation Bに生息している傾向が強い ことがわかった.したがって,ウミニナとヘナタ リの仲間の同所的な生息が不可能になっている可 能性もある.2010年に行われた防災道路設備事 業による人的破壊が干潟に影響を与えたことはこ れまでの研究結果をみても否定できない.また, この8年間の研究結果を比較してみると,喜入干 潟上の生態域が乱されて以来はっきりとした回復 傾向に向かっているとは言えないと考えられる -
緒方李咲・黒木理沙・奥 奈緒美・冨山清升 . 桜島袴腰大正溶岩の潮間帯におけるアマオブネガイとイボニシの生活史と殻の内部生長線観察 . Nature of Kagoshima45 ( 1 ) 281 - 289 2019年5月
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記述言語:日本語 掲載種別:研究論文(学術雑誌) 出版者・発行元:Nature of Kagoshima
アマオブネNerita albicilla Linnaeus,1758は, 熱帯太平洋から日本中部まで広く分布するアマオブネ科に属する草食性巻貝である. イボニシReishia clavigera(Küster,1860)は, 北海道南部, 男鹿半島以南に分布するアッキガイ科に属する肉食性巻貝である. 従来の研究では, アマオブネにおいては野中・冨山(2000),竹ノ内・冨山(2003)によって,イボニシにおいては吉元・冨山(2014)などによって報告されてきたが, アマオブネについて成長線・潮汐輪の調査をした研究例は無い. 本研究では, 2種の貝のサイズ頻度分布, アマオブネにおいては成長線・潮汐輪の調査を加えて行い, アマオブネとイボニシの生活史を明らかにすることを目的とした.
調査は, 鹿児島県鹿児島市桜島の袴腰海岸の潮間帯で行った. 1914年の大正噴火によって噴出した溶岩で形成された岩礁性及び転石性の潮間帯である. 材料はアマオブネとイボニシの2種の巻貝である. サイズ頻度分布調査では,桜島袴腰大正溶岩において, 2017年12月から2018年11月の期間に毎月1回, 大潮の干潮時に, 潮間帯中部付近のアマオブネとイボニシを無作為に30個体程度ずつ採集した. アマオブネの長軸長, 短軸長(mm), イボニシの殻高, 殻幅(mm)を, ノギスを用いて0.1mm単位まで計測し記録した. 成長線・潮汐輪調査では,サイズ頻度分布調査で使用する30個体のアマオブネの中から, 毎月無作為に5個体を選択し, 殻を削り成長線及び潮汐輪の本数を調べた. 殻を削るのにはグラインダ-(#150)を使用し, 殻の螺塔の反対側を砥石に押し付け殻の大きさが半分程度になるまで削った. グラインダ-使用後, #600, #1500のガラス板上にそれぞれ#600, #1500の粉末酸化アルミニウムを水で延ばし, 殻の断面をこすり研磨した. 成長線・潮汐輪の観察には双眼実体顕微鏡,エオシン染色法とスンプ法を用いた. アマオブネ, イボニシ共に, サイズ頻度分布のヒストグラムは一山型となり, 新規加入の個体群を示す双峰型のグラフにはならなかった. 成長線・潮汐輪調査においては, エオシン染色法, スンプ法どちらにおいても, 成長線・潮汐輪の本数を数えることはできなかった. 双眼実体顕微鏡での観察では内部成長線を確認できたが,本数を数えることはできなかった.エオシン染色法での観察においては, 肉眼では全く線が見えなかった. スンプ法での観察においては, 所々に線を確認できたが本数を数えられるほど明瞭にスンプを取ることはできなかった. 1年間を通してアマオブネ, イボニシともにサイズ頻度分布に大きな変動がなかったため, 新規加入時期の特定には至らなかった. このことから, 新規加入は今年は無かった, もしくは, 今回の調査場所外で行われている可能性が考えられる. 両種とも潮間帯中部付近の海水のかからない場所で採取していたため, 新規個体は両種とも潮間帯下部, もしくは水中に生息していたと推測可能である. アマオブネに関しては, 成長線・潮汐輪のできる周期も不明であった.原因としては,アマオブネの殻が非常に硬く研磨が足りなかったことが挙げられる.