講演・口頭発表等 - 冨山 清升
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冨山清升 . 陸産貝類を用いた生物地理学の研究事例紹介(日本生物地理学会学会賞受賞講演) . 日本生物地理学会第79回年次大会 2025年4月 日本生物地理学会招待
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開催年月日: 2025年4月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(招待・特別)
開催地:東京都 国名:日本国
陸産貝類を用いた生物地理学の研究事例紹介 冨山清升 (鹿児島大学理工学研究科&共通教育センター) 日本生物地理学会大会講演の要旨 2025年日本生物地理学会賞受賞記念講演 2025年04月12日(土) (1) 生物地理学の発祥とその歴史 地球上における生物種の分布状況を比較し,何らかの法則性を見いだして,分析する研究体系を生物地理学:Biogeographyとよんでいる.恐らく,人類は古代から,地域によって,そこに生息している生物種が異なっていることは経験的に気づいていたであろうし,航海技術の発達や交易による,広範囲な旅行が可能になるにつれ,生物の分布比較やその法則性の抽出は可能になっていっただろう. 生物地理学の祖と言える人物は,古代ギリシャの哲学者アリストテレスであろうが,近代的な,科学的な意味での生物地理学を展開した人物は,ドイツの大地理学者フンボルトであろう.フンボルトは,主に南米地域に,自ら探検航海に出かけ,多くの動植物を含む地理的な考察を展開した. 生物学の一つの分野としての古典的な生物地理学は,大航海時代に,ヨーロッパに蓄積された動植物標本を分析する過程で生まれたものである.近代的な生物地理学は,イギリスの植物学者のフッカーや,動物学者のウォーレスによって創始された. 生物地理学では,世界の動物分布の区系は,気候の影響よりも,地質的な歴史を反映した部分が大きい.世界の動物区界は,動物相の違いから,旧北区(Palearctic ecozone),新北区(Nearctic ecozone),新熱帯区(Neotropic ecozone),エチオピア区(Afrotropic ecozone),東洋区(Indomalaya ecozone),オーストラリア区(Australasia ecozone),オセアニア区(Oceania ecozone),および,南極区(Antarctic ecozone)の8つに区分されるが,動物区系の,東洋区とオーストラリア区を分ける境界線は,ウォーレスによって1868年に提唱され,ウォーレス線(Wallace line)とよばれている.また,淡水魚類の分布から,ウェーバー線(Weber line)が1902年に提唱された.2013年にホルトらは,両生類・鳥類・哺乳類に関して,21037種の分布状態や系統関係も考慮した上で,総計12種類の新生物地理区を提唱した.上記の生物地理区に加え,中国・日本区(Sino-Japanese ecozone),サハラ・アラビア区(Saharo-Arabian ecozone),マダガスカル区(Madagascan ecozone),パナマ区(Panamanian ecozone)の計4区を新たに追加した. 動物区界の旧北区と東洋区を分ける境界線として,1912年に渡瀬線(Watase line)が提唱された.渡瀬線が引かれている薩南諸島は,琉球列島中・北部に位置し,大隅諸島,トカラ列島,奄美諸島から成る島嶼群である.旧世界を北区と熱帯区に二分する境界線は,日本では,琉球列島上にある.それより北は旧北区,南は東洋区とされている.境界線の両側は,それぞれの区の特徴を持つと同時に,多分に他区の影響も受けている.主に昆虫相の違いから,九州と屋久島・種子島間 (大隅海峡) に三宅線が,主に哺乳類,ハ虫類,両生類でトカラ列島の悪石島・小宝島間 (トカラ海峡) に渡瀬線が,さらに,鳥類相によって,沖縄島と宮古諸島間に蜂須賀線が設けられている.動物群によって境界線が異なるために,琉球列島全体を,幅をもった移行帯とする考え方もある.このような差は,分布を制限する地史,地形,および,気候などが,異なる動物群に一様に作用している訳ではないからだと推定される.多くの動物群でファウナのギャップが認められることから,悪石島と小宝島の間に引かれている渡瀬線は,その地域にトカラ・チャンネルとよばれる地溝帯が存在し,海退の進んだ氷河期には,長江と黄河が合流した大河の河口がそこを流れていたためとされている. 生物の分布境界線を論じると,必ずと言っていいほど,その存在に対する素朴な疑問が呈されることがある.すなわち,「分布境界線を挟んだ地域には,生物区界の両方の地域の生物が見られる.境界は漸進的なものであり,断続的なギャップではない,従って,境界線を引くのは間違いだ.」といった内容の意見である.常識的に考えて,ある地理的な境界線を挟んで,生物相が,完全に断絶していることなどあり得ないし,そのような場所は地球上では,海洋島の孤島ぐらいしか存在しないはずだ.ウォーレス線でも,渡瀬線でも,その境界を越えて,接する両方の生物区界の動物が越境分布している事例は,いくらでも存在する.生物分布の境界線とは,大きな生物相のギャップが観察される場所は,相対的に観察して,もしくは,統計的に処理して,どこなのか,という目安程度の存在と考えればよい. (2) 陸産貝類が生物地理学の材料として優れている理由 陸産貝類はその移動手段が主に腹足による匍匐(ほふく)であるため,移動能力が他の生物群に比しても極めて低い.このため,地理的に局所的な遺伝的分化が生じ易く,特に島嶼部においては分化が著しい.したがって,島嶼における進化や生態系を論じる際,陸産貝類は有益な情報を提供してくれる.ハワイの陸産貝類は,「谷ごとに種が異なる」という言われ方をしてきた.ハワイは火山島であり,山の谷部の浸食の結果,島々には非常に深い谷が形成されている.その結果,陸産貝類は尾根を越えての移動が困難であり,谷底に生息する種(正確には亜種)が谷によって異なる例もある.ハワイマイマイ科に属する種は,基本的に樹上棲の種が多く,樹幹と林冠部では生息する種が異なるなどの細かい生態的地位(ニッチ)の分割が進んでいる.オアフ島の調査では,非常に狭い地域で,地理的種分化と生態的適応放散の進化を繰り返した結果,非常に多くの種に分化していったことが判っている.また,陸産貝類には種内変異が著しい種も多く,古くから,生物地理学,進化学,集団遺伝学の研究対象とされてきた. 古典的な生物地理学においては,複数の地域間での動物相の比較が必須の作業である.ある地域の特徴的な動物を挙げて,主観的に比較する手法が長らく主流であったが,20世紀以降は,数値分析による客観的な手法も行われるようになった. 動物相の地域間の類似度比較には,多数の手法が提唱されている.ここで,aとbは両地域に分布している種数,cは両地域に共通して分布する種数とすると;最も誤差の少ない算出法は、意外にも非常に単純な、野村-シンプソン指数:NSCであることが知られている。 NSC = c / b,a > b 各種のファウナ類似度の計算式は,一見,まったく異なっているように見えるが,式を変形させるとすべて; c / b × 各変数に基づく係数 に変形でき,すべて野村-シンプソン指数の変形に過ぎないことがわかっている. 類似度指数によって計量化された,動物相間の類似度は,類似マトリックスによって表示されることが多い.比較する動物相の数が多くなってくると,全体の把握が困難になる.これらの数値を群分析法(クラスター分析)によって算出された分岐図で図示すると,全体像の把握が容易になる. クラスター分析は,多変量解析とよばれる統計学的手法の一つで,最短距離法,最長距離法,群平均法,重心法,メジアン法,ウォード法,モード法,可変法などが知られている.どの手法が最も正しいとは言えないため,動物相の性質によって用いる手法が異なる.経験的には,計算の密度空間を不変にし,空間が,濃縮されたり拡散されたりすることのない群平均法が,ヒトの直感に近い分岐図が得られやすい.動物相(ファウナ)の比較法は,近年では,NMDS解析法:非計量多次元尺度解析法)が,ファウナ比較で用いられる事例が増えている. (3) 南西諸島の生物地理 琉球列島(南西諸島)は,南北に長く連なっており,その地史も古く複雑である.このため,各島には固有種の陸産貝類も多い.これらの南西諸島の各島の陸産貝類相を調査し,各島の間で類似度指数を算出し,その数値を元に,群平均法によるクラスター分析によって各島グループ分けし,大まかな生物地理の小区に分けた.北から,宇治群島区,大隅諸島区,トカラ列島区,奄美群島区,沖縄諸島区の各小区に分けられることが判った.宇治群島は,非常に固有種率が高い地域として知られる. 東洋区と旧北区を分けるとされる,渡瀬線のあるトカラ列島付近に絞って,陸産貝類相をクラスター分析した結果、悪石島と小宝島の間にある渡瀬線を境に,陸産貝類のファウナが分けられることがわかった. 各地域の生物相を生物地理学的に比較する場合,特定の種に絞って,個体群間変異の観点から,個体群間の比較をする場合もある.その場合,個体群間の類似度を算出する方法が必要になる.各個体群が,それぞれにその個体群固有の形質を有している場合には比較が容易だが,通常は,各個体群は,個体群内変異を有した個体から構成され,これらの変位幅は,個体群間で重複している場合が多い.そのような場合,個体群を構成する各個体の形質を,個体ごとに測定する必要性が出てくる. 例えば,陸産貝類の場合,殻の形質を測定する場合が多い.このような計測値を元に,個体群間変異の把握を容易にするため,個体群間の類似度を算出することになる.この場合,個体群間の類似度の算出には,統計学的な手法を用いる.通常は,類似度を算出するために,殻高や殻幅といった各形質の平均値を算出し,個体群間の平均値点間の単純ユークリッド距離を算出する手順となる.しかし,殻高と殻幅のような量的形質の場合,形質間の相関が高い場合が多く,形質が増えるほど数値が大きくなってしまう.このため,それらの歪みを補正する距離の算出が必要になる.類似度の算出方法が,各種提案されており,相関形質が多い場合は,相関を相殺するマハラノビス距離が有効である.また,距離の算出は,平均値点間の距離ではなく,重心値間の距離を用いた方が歪みが少ない. しかし,個体群間の類似度を算出した,類似マトリックスの表は,比較する個体群数が増えるほど,数値羅列の表が大きくなり,個体群間変異の把握が視覚的に困難になる.このため,個体群間変異の程度の認識を容易にするために,類似マトリックスの数値を,上記で述べたクラスター分析で解析することになる.ここで注意しなければならないのは,最短距離法,最長距離法,群平均法の3手法以外は,単純ユークリッド距離しか適用できないという点である.タネガシママイマイの個体群間の類似度を殻形質から算出し,重心間の類似距離をマハラノビス距離で算出し,クラスター分析の群平均法で作図した.この種が,殻形態からは,大きく4種類の地理的グループに分けられることがわかった. タネガシママイマイの殻形質の変異が,どの程度の遺伝的バックグラウンドがあるのか不明であるが,mtDNA塩基配列の分析では,貝殻形質の分析とは,やや異なった結果が得られている. (4) 島の生態系に関する基本的な考え方 古典論としての生物地理学は,各地域の生物相を比較し,数値分析する程度であったが,米国の生態学者マッカーサーは,1967年、生物種の移住分散の問題にヒントを得て,生物地理学に生態学や進化学の手法を導入し,現代的な意味での生物地理学を再構築した.特に,閉鎖生態圏として,生物群集間の比較が容易な島嶼に注目し,「島の生物地理学」(Island Biogeography)という新たな研究ジャンルも開拓した.そのような分析の中でr-K選択という概念の提唱もされた. 日本には離島が多いが,これらの島々にも,多くの生物が生息している.この島々に分布する生物は,島嶼で独自の進化をとげた結果,固有種が多いことが知られている.これらの島嶼の生物の性質を知るには,島嶼の生態系に関する基本的な考え方を知っておく必要がある. まず,生物地理学的には,島は,大陸島:continental islandと大洋島:oceanic islandに分けられる.大陸島とは,大陸周縁部に位置する島を指し,地質学的時間スケールで大陸部と陸続きになった歴史がある島で,スンダ列島など東南アジアの多くの島嶼,アンチル諸島などのカリブ海の島々,日本列島や琉球列島などがその例である.大陸島の動植物相は近隣の大陸と関連が深い場合が多いが,島の面積によって収容できる種数が限られてくるため,各ニッチにおいて種の欠落が生じる例が多い.逆に,大陸では絶滅してしまった遺存種が島に生き残っている事例も多い.日本の島嶼はほとんどが,大陸島に分類される. これに対し,過去に他の大陸と繋がった歴史のない島を海洋島という.ガラパゴス諸島やハワイ諸島は海洋島の代表的な例であり,日本では,大東諸島や小笠原諸島がこれに当たる.海洋島では,生物が地質学的年代で、長期間にわたって隔離される機会が多いため,なんらかの手段で海を渡って島にたどり着いた生物は,島内で独自な進化をとげ,多くの固有種が分布する例が多い.また,海洋島では,同一起源の種群が,ニッチの細分化を起こしつつ,適応放散することが多い. 島嶼の生物研究は,このような大陸島と海洋島という2つの異なった生態系の性質を念頭に置かなければならない.島に生物が到達する機会が限られるため,動物・植物ともに,特定の分類グループに偏った生物相が形成される場合が多い.さらに,長距離分散や定着の困難さから,生物相のニッチが空いている場合が多いこと,哺乳類・ハ虫類の捕食者や大型草食獣の欠如のために,そのような動物に対する競争力や耐性を持っていない場合が多いこと,生物群集の構成要素が貧弱なために,食物連鎖が極めて単純であることなどの理由で,島の生物群集は,一般に,外的攪乱に対して極めて脆弱である. 生物群集は,生息地の面積が広いほど,収容される種数が多くなる.同じ生息環境の複数の生息地を対象にして,横軸に生息地の面積をとり,縦軸に種数をとってグラフに表すと,生息地の面積(A)が大きくなると,そこに含まれる種数(S)が増加する関係が認められ,種数-面積関係(species-area relation)とよばれ, S=CAZ の関係が成り立つことが知られている.これを種数-面積曲線:species-area curve:SACとよんでいる.ここで,Cとzは正の定数であり,また,zは,一般に0~1の間の値で,この値が小さいほど,面積に伴う種数の増加率が低くなることを意味している. ここで上記の両辺を対数変換すると, log S = log C + z × log A と変形でき,種数の対数値(log S)は,面積の対数値(log A)と直線関係になる.すなわち,zはこの直線の傾きで,両対数で見たときの単位面積当たりの種数の増加率を意味し,log Cは直線の切片で,面積が1(面積の対数値がゼロ)の場合の種数を表している. 種数の対数値(log S)は,log Cとzという二つの係数の大小に左右されるため,調査対象面積を大きく取るか,小さく取るかによって,二つの群集間の種数が逆転する場合もある.島や内陸湖沼のような,他地域から隔離された場所のデータでは,zの値は,約0.2~0.3の範囲になる場合が多い.これは,対象地域の面積が大きくなると,その地域に含まれる総個体数が増加するだけではなく,その生息環境が多様になるためでもある.また,面積が大きい生息場所ほど,新しい種が外部から移住してくる率は増加し,内部で絶滅の生じる機会も低くなる.でも大陸島に分類分けされる,琉球列島(南西諸島)に生息する陸産貝類でも種数-面積曲線の作図が可能である. 大陸の内部に,さまざまな面積の調査区を設置した場合は,海洋島に比べて,種数-面積関係におけるzの値(傾き)は,ずっと小さく,C の値(切片)は大きくなる.これは,大陸内部の調査区では,海洋島に比べ,狭い面積では種数が多く,種数-面積曲線は,面積に伴う種数の増加率が低いことを意味している.これは,隣接する地域からの移入が容易であることを示している.大型動物は,大陸では,繁殖が容易であるが,海洋島では,個体群の維持は困難である.調査区そのものの面積が小さくとも,そのような大型動物の存在が,面積-種数関係に反映される. (5) クラカタウ島の陸産貝類紹介 クラカタウ島は,インドネシアのジャワ島とスマトラ島の間に位置する火山島である.クラカタウ島は,有史以来,数回にわたる大噴火を繰り返しており,単一の島ではなく,カルデラ壁に相当する小島から構成される群島となっている.1883年8月27日午前10時頃,クラカタウ群島で最も大きな島であったラカタ島が大噴火を起こし,島の大半が吹き飛んだ.噴煙の高さは,成層圏まで達し,約3万8000mにおよんだ.噴火に伴う空振は全世界に到達し,5,863km離れた東京でも1.45hPaの気圧上昇が記録されている.気象観測の結果,噴火の衝撃波は,約15日間をかけ,地球を7周した.噴火で発生した高温の火砕流は,厚さ約40mに達し,海水を沸騰させて水蒸気を発生させ,その上を滑走するホバークラフト効果でジャワ島やスマトラ島沿岸に押し寄せ,多数の人々が亡くなった.噴火で発生した大津波は,周辺の島々やインド洋沿岸を襲い,約3万6000人が亡くなった.津波の高さは正確な記録が無いが,沿岸に設置された灯台の頂部に逃げた灯台守だけが助かった事実から,高さ70mを超えていただろうと推定されている.津波は,日本にも到達し,鹿児島市中央を流れる甲突川にも押し寄せた記録がある.約1万7000km離れたフランスのビスケー湾の検潮儀でも潮位変動が観測された.噴煙が広く成層圏に拡散した結果,太陽光の照射に影響を与え,北半球全体の気温を0.5~0.8℃低下させたとされている.その気温低下に伴う異常気象が数年間続いた. 1883年の大噴火によって,クラカタウ島は,一時期,無生物状態になったと推定されるが,その後,1908年から,生物相の回復過程を把握する調査が,断続的に行われてきた.しかし,1934年を最後に,約50年間,生物調査が中断されていた.1982年,クラカタウ島噴火100周年を記念し,日本の鹿児島大学とインドネシアの合同研究チームが,群島の総合調査を行った.研究成果は,各種の学会誌に論文として多数投稿された.それらの論文によると,クラカタウ島の植生は,遷移の途上にあり,周辺の島々,ジャワ島やスマトラ島の海岸部の自然林に比較しても,安定状態には達していないことが推定された.また,動物では,飛翔性の有剣類のハチ相も移住が継続しており,種の飽和には達していないことが解った.移動能力の劣る陸産貝類は,1933年の調査までに,12種が記録されているが,1982年の調査では,新たに2種が未記録種として採集され,陸産貝類も,生息種数が飽和した安定状態には達していないことが解った.その後,オーストラリアやインドネシアの研究チームによって,断続的に,生物調査が継続中である. (6) 鬼界カルデラの生物地理の紹介 クラカタウ島に似たような火山大噴火と生物移住の事例が,日本でも生じている.九州南部海域に位置する鹿児島県大隅諸島の硫黄島(面積11.65 km²;最高標高703.7 m)と竹島(面積4.20 km²;最高標高220 m)は,火山活動で形成された比較的新しい島々である.約7300年前,この2島付近にあった大きな島が大噴火を起こし,山体が吹き飛んだ.これは,鬼界(きかい)カルデラの大噴火とよばれ,世界的にも,ここ1万年の間では最大規模の大噴火であった言われている. 現在の竹島と硫黄島の北西側山塊は,この鬼界カルデラ大噴火時に形成されたカルデラ壁である.硫黄島の硫黄岳などの山体は,大噴火の後に形成された中央火口丘の一つとされている.すなわち,両島は,約7300年前に,一時的に完全な無生物状態になった.この当時,最終氷河期であるウルム氷期は終わっており,その後,この2島が他の陸塊と陸続きになった歴史はない.したがって,両島に分布している生物は,何らかの手段を使って他地域から移住分散してきたと推定できる.陸産貝類に関しては,近隣の西側に位置する黒島に生息する固有種と思われていた種が,両島にも分布すること,また,アイソザイム(多型タンパク質)やmtDNAの分析結果から,両島の陸産貝類は,人為的に,植木などに付着して黒島から持ちこまれたと推定されている .また,淡水産巻貝のカワニナは,mtDNA分析から南側の口永良部島,もしくは,屋久島から分散したと推定されている . (7) 南西諸島のDNA分析を用いた生物地理 最近では,mtDNA(ミトコンドリアDNA)のCOⅠ(チトクロームオキシターゼⅠ)遺伝子や16SrRNA(リボゾームRNA)遺伝子の塩基配列の比較が簡単に分析できるようになり,種間や個体群間のDNA情報に基づく類似度が出せるようになった.このため,各種動植物の分類群において,DNA塩基配列に基づいた生物地理学的な研究事例も多数発表されている.しかし,生物地理学的な考察の基本は,系統分類学を主体とした古典論にも基づいたものが多い.以下に、陸産貝類を用いた研究を2例ほど紹介したい。 薩南諸島に広く分布するチャイロマイマイPhaeohelix submandarina (Pilabry, 1890) (オナジマイマイ科 Bradybaenidae)には,地理的変異が島嶼間で顕著に見られ,これらの問題を扱うのに好都合である.一方,その豊富な形態的変異により分類学的混乱も引き起こしている.さらに,薩南諸島に属するトカラ列島は,動物区界の東洋区と旧北区の境界をなす点で生物地理学上重要であり,本種の種内変異を把握し,様々なアプローチから体系的に議論することには大変意義がある.本研究では,薩南諸島各地から得られたサンプルのmtDNA-COI領域 (626bp) の塩基配列を解析し,殻の形態を用いた多変量解析の結果や生殖器の特徴とどのような関係があるのかを調べた.得られたCOIハプロタイプの地理的分布は,生殖器の形態パターンの地理的分布とほぼ一致し,一方,殻の形態パターンとはほとんど一致しないことがわかった.さらに,大隅諸島・トカラ列島に分布する個体群は全てチャイロマイマイであり,従来の陸産貝類相の研究結果とは異なって「トカラ海峡越え」分布をしていることもわかった.タメトモマイマイPhaeohelix phaeogramma (Ancey, 1888)を特徴づけるチャイロマイマイとの違いは見いだされず,両種が同種に属することが示された.さらに,今回,伊豆諸島に分布するミヤケチャイロマイマイPhaeohelix miyakejimana (Pilsbry & Hirase, 1903) と類似した生殖器形態やDNA変異を示す個体群 (黒島・硫黄島・竹島・宇治群島・草垣群島) が見つかった.したがって,生殖器形態やDNAの地理的変異を考慮せず,従来の殻の形態のみに基づく「種」の判別は非常にリスクが大きいことが判った.すなわち,陸産貝類の分類や類縁関係の分析は,形態変異の内に潜む遺伝的構造をしっかりと把握して総合的に議論することが重要である. ヤマタニシ属Cyclophorusは,東南アジアから東アジアに至る広範囲の分布域をもち,蓋がある前鰓類に属する.本属は,同種内の殻の形態差が大きいという特徴をもっている.鹿児島県のヤマタニシ属の記載種5種である,ヤマタニシ Cyclophorus herklotsi MARTENS, 1860,オオヤマタニシ Cyclophorus hirasei PILSBRY, 1901,オオシマヤマタニシ Cyclophorus oshimanus KURODA, 1928,キカイヤマタニシ Cyclophorus kikaiensis PILSBRY,1902,オキナワヤマタニシ Cyclophorus turgidus (PFEIFFER, 1851)の分類は,全て殻の形態に頼っており,これらの種間の類縁関係は調べられていない.よって,本研究では,鹿児島県に生息するヤマタニシ属の分子系統解析を行うことにより,既載種の見直しをすることを目的とした.分子系統解析においては,mtDNAのCOI領域(516bp)の塩基配列が決定され,近隣結合法と最尤法によって系統樹を作成した.系統解析の結果,奄美大島のヤマタニシ類は大きく2つのグループに分かれた.一方は,奄美大島北部の個体群で,先島諸島や沖縄諸島に生息するヤマタニシ類と近い関係を示した.他方は,奄美大島中部から徳之島に渡る広い分布域を持っている.ヤマタニシ属の地域集団は,その殻のサイズや形とは無関係に同じグループに属することが分子系統解析により判明した.したがって,殻の形態に基づく分類方法は本属を同定するにあたり不十分であり,分類記載の見直しが必要である.ヤマタニシ属の表現型は非常に多様であり,そのような種を正確な同定するためには,分子系統解析が非常に有効な手段であることがわかった. 日本における海洋島である小笠原諸島の陸産貝類相に関する生物地理学的な調査・研究も行ったが、長くなるため、今回は割愛し、別の機会に話をすることにしたい。 (8) おわりに 1983年、南西諸島における陸産貝類の生物地理学的な研究結果を「日本生物地理学会誌」に投稿して以来、40年間以上、日本生物地理学会にはお世話になってきた.最近は、大学院の指導学生の研究成果を投稿する場として活用させていただいている。ひとえに、門戸が広く、各種の論文を掲載させて頂いている生物地理学会には深く感謝申し上げたい。 最後に、日本生物地理学会のこれからのますますの発展を祈念して結語としたい。
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伊藤隆広・冨山清升・他 . 集水域の保護活動と自然観察会 . 慶応大学日吉丸の会 2024年9月 慶応大学日吉丸の会
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開催年月日: 2024年9月
記述言語:日本語
開催地:慶応大学日吉キャンパス
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冨山清升 . 小笠原の自然の紹介と自然破壊の歴史 . 慶応大学日吉丸の会定例会 2024年2月 慶応大学日吉丸の会招待
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開催年月日: 2024年2月
記述言語:日本語
開催地:慶応大学日吉キャンパス(神奈川県横浜市)
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冨山清升 . 日本における進化論から進化学への変遷 . 鹿児島県昆虫同好会2023年度総会 2023年11月 鹿児島県昆虫同好会招待
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開催年月日: 2023年11月
記述言語:日本語
開催地:鹿児島県鹿児島市 国名:日本国
熱狂者達の進化論の系譜 日本における進化論の考え方の導入は,明治期初頭にお雇い外国人として東京大学に招かれた生物学者だったエドワード・シルヴェスター・モースが,1877年(明治10年)に,その授業において,かなり簡略化した形で,ダーウィン進化論を紹介した時点に始まる.その授業を聴講した石川千代松が,モースのダーウィン進化論の講義内容を日本語に翻訳し,「動物進化論」という書籍の形で出版した.その本の中で「進化論」という言葉を初めて用いて,ダーウィン進化論を紹介した結果,日本の知識人には,自然科学としてのダーウィン進化論が定着していった.目新しい「進化論」という考え方は,当時の知識人には,よほど新鮮な理論として受け止められたらしく,当時の東京大学において「進化論ブーム」が招来していたことが,文献からも読み取れる. しかし,それとは別ルートで,日本美術の紹介者として有名なアーネスト・フランシスコ・フェノロサが,スペンサーの社会進化論を東京大学で講義した.フェノロサは,モースが米国から招聘したイタリア系米国人で,1878年(明治11年)の来日当初は,若干25歳の若者であった.フェノロサは,東京大学において,哲学,政治学や理財学(現代の経済学)の講義を主に行った.スペンサー流の社会進化論の講義はついでのものであったらしい.しかし,このフェノロサの講義に影響を受けた,加藤弘之(東京大学総長に就任)がかなり歪んだ形で社会進化論に関する著作物を大量に著すに至った.これらの活動の結果,日本の自然科学界では,ダーウィン進化論が定着し,文系知識人や一般には社会進化論が主流になった,と大ざっぱに説明できるだろう(終章参照). 日本において,進化論(進化学ではない)というと,「種の起源」に代表されるダーウィン進化論がイメージされるが,その実態は,「生存競争(生存闘争)」を前面に押し出した社会進化論を指す事例が多い.主に日本の文系知識人がイメージする「進化論」は,社会進化論であることが多いようであるし,一般の理解もそれに近い.第Ⅰ部第10章の社会進化論を述べた節で紹介したように,社会進化論とは,スペンサーやゴールトン等が提案した理論で,ダーウィン進化論で述べられているStruggle for existenceやStruggle for lifeというフレーズを曲解してヒト社会に当てはめたイデオロギー(科学宗教)であり,およそ科学とは呼べない思想である. ダーウィンが「種の起源」の中で繰り返し用いているStruggle for existenceとは,現代流には「適応度の個体差」(第Ⅰ部第9章)と訳すべき概念であり,過去の日本語への翻訳本で用いられてきた「生存競争」,もしくは,「生存闘争」は,明らかに誤訳である.ダーウィン自身も「種の起源(初版)」の第3章においても,「私はStruggle for existenceという言葉を,ある生物が他の生物に依存するということや,個体が生きていくことだけでなく子孫を残すことに成功すること(これはいっそう重要なことであるが)をふくらませ,広義にまた比喩的な意味にもちいるということを,あらかじめいっておかねばなるまい.」(八杉竜一訳 1963)とはっきり述べており,その後の文章で,生存力や繁殖力の個体差を意味するとの議論を展開している. この誤訳に基づいた生存競争という言葉が一人歩きし,日本において進化論(進化学では無い)とは生存競争(本来のStruggle for existenceの意味では無い)の原理のように受け止められている.この明治期に始まる誤訳の結果,進化論は生存競争の原理であるとの一般的理解が広まってしまった.文系を中心とした知識人においても,「進化論」は「生存競争の原理」だという認識が一般的になってしまった.この一般社会の理解は,大きな誤りであると敢えて強調しておきたい.この「進化論」=「生存競争の原理」という誤解は,明治期以来の日本における進化学の進歩において,大きなマイナス要因となっており,致命的な歴史的不幸であろう. 加えて,日本の文系知識人の思考パターンも指摘しておいた方が良いかもしれない.文系知識人の思考として,「原典に当たる」主義が,日本の進化論の世界でも展開されることが多い.進化論の原典中の原典である「種の起源」の解釈本はそれこそ山のように出ている.しかし,自然科学の世界では,古くて誤りの多い原典に当たる原典主義は否定されることが多い.ダーウィン進化論に基づく進化に対するダーウィン自身の理解は,「種の起源」初版(二版は語句修正のみ)でほぼ言い尽くされており,第三版以降,第六版までは,理論の後退を繰り返している.「新しい版の方が最新だろう」という思い込みで「種の起源第五版」を解説した文献も見かけたりする.しかし,こと進化学の考察に関しては,遺伝学未発達に因るダーウィン自身の理解の限界もあるため,とりあえずは,原典を読み解く原典主義は止めるべきだろう.ダーウィンの「種の起源」は文系書籍や思想の本ではない,19世紀の生物学理論の未発達な状況を土台とした自然科学の古い文献である.原典を読んでおくことは重要な作業の一つではあるが,それよりも何よりも,最新の進化学を詳しく学んでみようではないか. さらに言えば,ちまたにあふれる「進化論」を扱った日本の一般書を読む限り,原典である「種の起源」を,日本語訳ですら通読していないのではないかと思える知識人が大半ではないだろうか.日本の一般社会において主流となっている「進化論」であるスペンサー流の「社会進化論」を批判し,それを以てダーウィン進化論を批判したとして満足している文系知識人が極めて多いのではなかろうか. ダーウィンの進化論は,その後,遺伝学,発生学,生理学,分子生物学の研究成果を取り入れ,大きく変容しながら発展している.その結果,生物進化に関する理論は,「進化の総合説」と呼ばれる研究体系として「進化学」という形で定着している.しかしながら,日本の一般社会では,一度,社会進化論に染まってしまった「進化論」の思考は,容易に現代的な「進化学」には変更されそうにない.この思考のズレが,以下に述べる日本社会における各種の熱狂者達の進化論の流行を容易にしてしまっている. 現代進化学においては,本文第Ⅰ部第9章でも述べたようにStruggle for existenceを「生存競争」と訳すのは大きな誤りであり,「適応度個体差」:Individual difference of fitness とするべきだと提案しておきたい.また,自然選択,自然淘汰,あるいは,ダーウィンが用いた英語のNatural Selectionという用語も,現象の本質を言い表しておらず,あたかも「神の見えざる手」のような外的操作が存在するかのような間違ったイメージをいだかせてしまうため,「適応度原理」:Fitness Principle といった新たな用語を当てる方がふさわしいだろう.過去に出版された進化学の文献に出てくる生存競争を適応度個体差に,自然選択を適応度原理に,それぞれ言葉を置き換えて読み下してみると,論理がすっきりする. ただし,この「適応度個体差」や「適応度原理」という訳語の変換は,進化に関する現代の文献でのみ可能な処置であるという点を強調しておきたい.なぜなら,ダーウィンは,「種の起源(初版)」の中においては,ダーウィン自身が「Struggle for existenceという用語は広義に用いたい.」と述べている通りで,本の中では,Struggle for existenceという用語は,現代的な解釈では,「個体の適応度の差」以外にも,「種間競争」や「種内の個体間の闘争」そのものの説明にも使用されているからである.したがって,「種の起源(初版)」で用いられているStruggle for existenceの訳語は字面通りに「存在のための闘争」と翻訳しておき,その単語が用いられている文章,段落,および,章ごとに,現代的解釈に基づく細かい訳注を付ける必要がある.あるいは,「存在のための闘争」という訳文だけ示し,その解釈は読者に任せるという処置も可能だが,上述のような有害な誤った解釈が出現しないとも限らないため,その措置は危険だろう.もしくは,ダーウィンの生きたビクトリア朝時代の英語辞典を参照し,より適切な訳語を模索する必要性もあるかも知れない.単語の訳語の問題は,この本が書かれた19世紀末における,生物学の基礎知識の限界を示しているのだろう. ダーウィン自身の思考は,現代の血縁選択説理論の崩芽的アイディアも提案していたことから,時代を100年先に行ったレベルに到達していたと思われる.しかし,いかんせん,それを組み立てる部品(生物学の基礎理論)がまったく未発達であった.19世紀後半の時代は,遺伝は混和式遺伝を用いて考察するしかなかったし,粒子式遺伝学(メンデル遺遺伝学)が世に知られるのは20世紀に入ってからである.集団遺伝学も存在していなかったし,適応度(Fitness)という自然選択(Natutral Selection)の程度を表す概念も案出されていなかった.ダーウィンの「種の起源」におけるStruggle for existenceやStruggle for lifeという概念が,現代から見れば,広範な生物現象を広く包含し,曖昧模糊としているのも,時代的に仕方が無かったのかも知れない. さて,ここで以下に紹介する熱狂者達の進化論とは,少なくとも太平洋戦争後の日本において,生物学を専攻する大学院生を中心とした若手研究者の間で流行した思考体系に絞りたい.千島学説とか極東ミニ原人(イグ・ノーベル賞を受賞)とか,意味不明の理論は紹介しない.熱狂者達の進化論の特徴として,科学ジャーナリストの紹介文句の枕詞に「ダーウィン進化論を超えた進化論」とか「ダーウィン進化論を否定した進化論」という一連の言葉が踊ることが多い.これらは,物理学における「アインシュタインの理論を超えた理論」というフレーズと同じくらい胡散臭い言い回しだと受け止めておいて良い. まず,熱狂者達の進化論の一つと見なされる断続進化論(punctuated equilibrium;1980年代)は,第Ⅰ部第11章で詳しく取り上げたし,エピジェネティクス(epigenetics:後成学;2000年代)も第Ⅰ部2章で言及しているため.ここでは触れないことにする.また,ルイセンコ進化論(1950年代)や今西進化論(1970年代)は,終章で詳しく紹介したため割愛したい.今考えれば,随分と酷いと言うべきか,お粗末な理論なのだかが,当時の一部大学院生クラスは熱狂していた. ヘテロクローニー(heterochrony:異時性;1970年代): グールドというアメリカの古生物学系進化学者がいた.彼は,ハーバード大学でアガシ記念教授を務める等,正統派進化学の論客であった.アメリカの科学雑誌「ナチュラル・ヒストリー」誌に連載していた進化に関するエッセイ集はベストセラーとなり,日本語訳も出版されている.グールドの進化学的主張は,アトミズム(atomism)である進化の総合説に対して,自分の進化的主張はホーリズム(holism)であるとの見解であった.彼の主張するところのホーリズムという概念は,現代版「生気論」ともみなすべきもので,機械論(=アトミズム)のように個々の事象を分解して分析し,単純化していく思考を嫌い,現象を総体として考察する思考を好んだ.そのホーリズム的思考として,上記に挙げた断続進化論やヘテロクローニーを主張した.ヘテロクローニーとは,個体の発生・成長過程において,体が大きくなっていく「生長」と,性成熟していく「成長」は必ずしも並行的な発生過程ではないことが多い.そのような個体発生の現象が,進化における系統発生でも生じているという主張であった.幼形成熟などは,その一つの表れであるとした.この進化学的な思考は,日本でも一部の大学院生が採り入れ,熱狂した時代があった.しかし,ヘテロクローニーは,進化の機構に対し,新たなメカニズムを提示出来ず,現象をなぞっただけで終わり,流行は終息した. 左右対称性のゆらぎ(fluctuating asymmetry:1990年代): 左右対称形の生物の左右対称を測定してみると,完全に左右対称ということはなく,微妙にどちらかに偏っている.その偏りは微小がこともあれば,大きくずれている場合もある.この左右対称性が,進化のメカニズムの現れとなっている主張する進化学が,左右対称性のゆらぎ学派であった.これは,発生学としては,「個体発生の不安定性」(developmental instability)とも言われ,1960年代から細々と研究例が積み重ねられていた.それらの研究の中で,近親交配個体は,発生異常に陥ることが多く,その結果として左右非対称が生じているらしいという事実も指摘されていた.その結果,保全生物学において,左右非対称性を測定することで,ある個体群の遺伝的多様性の度合いを簡易的に示すことが出来るだろうという研究がいくつか提案された.一部の大学院生が一連のこれらの話題を取り上げたが,新たな進化のメカニズムが提案されることなく,流行は終息してしまった. エボデボ(Evo-Devo:Evolutionary Developmental Biology:進化発生生物学;2010年代) 大生物学者ヘッケルが主張した「個体発生は系統発生を繰り返す」という発生反復説は,発生学から進化学に対して提示された理論体系であり,現代でも一部の進化学の教科書では紹介されている.しかし,個体発生の状態を形質として見なすならば,個々の形質は,進化的に系統の近い生物同士は似ているのが当たり前である.結局,発生反復説は,進化のメカニズムに対し,新しい説明を付け加えることが無かった.以来,発生学と進化学は,相性の悪い分野であったが,分子生物学的な観点から発生学が解明されるようになると,新たな進化学的な主張が発生学分野から提示されるようになった. 1980年代,ホメオボックス(homeobox)遺伝子群と呼ばれる遺伝子部位の研究が進み,動物の発生過程の調節現象が解明されていった.動物の体節構造が,ホメオボックス遺伝子がDNA中で相同性の高い繰り返し部位となっており,これらの遺伝子群が個体発生を調節していることが示された.ホメオボックスは,動物だけでなく,植物や菌類でも見つかるにおよび,生物の進化過程のごく初期から存在するDNAの塩基配列であることが解ってきた.また,ホメオボックス遺伝子群を含む各種の遺伝子が,発生制御の結果,進化の過程で,まったく関連性の無い形質発現で使い回しをされている事実も指摘されるようになった.すなわち,同じ遺伝子であっても活性化される生物グループや組織,および,発生時期が異なれば,まったく違う働きをする事例が多数報告されるようになった.例えば,巻き貝の右巻きか左巻きかを決定する遺伝子は,カエル類の内蔵の非対称性の発生にも関わっていることが解っている.また,大野 乾は,同じ遺伝子が重複することによって,DNA変異が蓄積し,自然選択に因らない形質が進化する可能性を指摘し,遺伝子重複進化説を提唱した.これらのような発見を背景に,進化発生生物学(エボデボ)と呼ばれる新しい学問体系が提案され,進化現象への新たな説明が期待された. しかし,これらの現象は,新しい形質出現(突然変異)の出現要因の説明にすぎず,新しい進化メカニズムの提唱までには至らなかった.エボデボも,2010年代までは,発生学を中心とした大学院生が熱狂したものの,2015年頃を境に急速に流行が沈静化しつつある. 中立進化説(neutral theory of molecular evolution:1970年代): 木村資生は,1968年に,「タンパク質や分子レベルの進化的変異は,自然選択にかからない中立的な形質が,確率的な偶然性に拠る遺伝的浮動に因って集団全体に広がったものである.」,という分子進化の中立説を提唱した.この説は,太田朋子によって数学的にも立証された.その結果,1970年代,集団遺伝学を研究する若手研究者や大学院生を中心に,中立進化説が熱狂的に受け入れられ,数多くの研究が発表された.現代では,分子進化の中立説は汎世界的に認められ,自然選択(適応度原理)説と共に,進化の原動力の両輪の一つとして認知されるに至っている. ただし,中立進化説に熱狂した若手研究者達にも,一定程度の理論の暴走が観察された.中立説を提唱した木村資生を神格化したり,生命現象をすべて中立説で解説したがる傾向が認められた.例えば,「生物進化において自然選択などあり得ない.生物の進化はすべて中立遺伝子突然変異と遺伝的浮動で説明可能である.」といった極論を聞かされたものだ.「進化の総合説」を体系化した研究者の一人であるエルンスト・ワルター・マイヤーさんが,1994年に来日された際,生物進化に関する講演を聴き,交流会で立ち話をする機会を得た.その際の議論の一つで,「マイヤーさんが提唱された,周縁小個体群の種分化理論では,遺伝的浮動による進化が生じる可能性があるのではないですか?」という質問をしたことがある.マイヤーさんは,「個体群中の遺伝的浮動はほとんどないだろう.周縁小個体群の種分化理論も,突然変異で出現した遺伝子を持った個体の自然選択で説明できる.」と,遺伝子頻度の浮動に因る進化には否定的だった. 以上のように,太平洋戦争後の時代,大学院生達を熱狂させた「新しい」と言われた進化論のいくつかを紹介したが,結局,進化を説明する新しい学説として定着出来たのは,中立説だけである.これら一連の若手研究者達を一時的に熱狂させた,熱狂者達の進化学説に共通する特徴は,進化の結果にだけ注目して議論を展開している点だろう.進化理論とは過程が重要なのであって,進化過程とそのメカニズムがあってこそ,結果が導き出されるものだ.結果だけ見て議論しても,新たな進化理論が構築できる訳ではない.結局,新しく提唱された各種の進化理論において,進化過程の新しいメカニズムまで提示することが出来た中立説だけが生き残ったのも当然の成り行きであった. これからも,大学院生レベルの若手研究者達を熱狂させる進化論は繰り返し,出現してくると予想される.しかし,中立説のように進化学の体系に組み込まれるような大きなパラダイム転換を伴う学説はほとんど出てこないだろう.私は,占い師でも予言者でもないが,もしあるとすれば,現代的な進化学が繰り返し否定し続けてきたメカニズム,すなわち,(1)種のような遺伝子プール全体が自然選択の単位となる新たな意味での群選択(group selection),あるいは,(2)環境に対する変異が遺伝的形質に転換する新しい意味での獲得形質に因る進化,場合によっては,「生命現象のセントラルドクマ」をも破壊するようなメカニズム,等がすぐに思いつく.一部では,これらに類するような説が既に提唱されているが,自然選択(適応度原理)説や中立説以外の,進化を推進するまったく新しいメカニズムが,提唱され,広く認知され,進化学に組み込まれる可能性は非常に低いだろう. 以上.
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冨山清升 . 鹿児島大学における数理データサイエンスAI教育の全学必修化の経緯紹介 . 数理データサイエンスAI教育コンソーシアム九州ブロック(第二期)キックオフミーティング 2022年6月 数理データサイエンスAI教育コンソーシアム九州ブロック会議招待
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開催年月日: 2022年6月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(招待・特別)
開催地:福岡県福岡市西南学院大学 国名:日本国
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冨山清升 . 鹿児島大学総合教育機構共通教育センターにおける教養・共通教育のカリキュラム・ポリシーについて . 国立大学教養教育実施組織全国会議in山形 2022年5月 国立大学教養教育実施組織全国会議i
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開催年月日: 2022年5月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:山形県山形市山形テルサ 国名:日本国
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冨山清升・庄野 宏 . 数理データサイエンス教育を鹿児島大学の全学必修化に伴う経緯と今後の見通し . 第68回九州地区大学教育研究協議会 九州地区大学教育研究会 数理データサイエンス部会招待
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開催年月日: 2019年9月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:宮崎市ニューウェルシティ宮崎
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庄野 宏・冨山清升 . 鹿児島大学における数理データサイエンス導入の現状と課題 . 第二回九州ブロック 大学におけるデータサイエンス教育に関するシンポジウム 九州地区大学数理データサイエンス研究会招待 国際会議
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開催年月日: 2019年7月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:福岡市 西新プラザ(九州大学)
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中山弘章・冨山清升・浅見崇比呂 . タネガシママイマイの種内変異の研究 . 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 日本生態学会
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開催年月日: 2017年3月
記述言語:英語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:東京都 早稲田大学
陸産貝類は、他の動物群と比較して移動能力が劣るため、個体群間の遺伝子交流が極めて少ない動物群であり、局所的な特殊化が起こりやすい。本研究では、鹿児島県の島嶼に生息するタネガシママイマイの殻標本の形態解析を行い、本種における種内変異を殻形質に基づいて明らかにすることを目的とした。また、以前独自の方法で行われた本種の殻形質を用いた形態解析 (Tomiyama, 1984) の結果と、近年の手法を用いた本研究とを比較することも目的とした。ユークリッド距離を用いてクラスター分析を行った結果、トカラ列島中部・種子・屋久・宇治・草垣,トカラ列島北部・三島の2つのグループに分割出来た。マハラノビス距離を用いた場合は、トカラ列島・宇治・草垣,屋久・種子,三島の3つに分かれた。マハラノビス距離を用いた場合、地理的に近い個体群が同じグループに集まる傾向が強かったが、Tomiyama (1984)とは異なる結果となっていた。地理的に離れた個体群間で形態が類似するのは、陸続きだった時代に分散した個体群が、海に隔てられた後、環境条件などに応じて独自の形態変化を遂げ、その結果形態が類似したからだと考えられる。
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今村隼人・大窪和理・中山弘章・冨山清升・氏家由利香・浅見崇比呂 . mtDNAのCOI領域の遺伝的変異の分析に基づくウスカワマイマイの島嶼個体群間の変異と国内外来種として見た本種の特徴 . 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 日本生態学会国際会議
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開催年月日: 2017年3月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:東京都 早稲田大学
今村隼人・大窪和理・中山弘章・冨山清升(鹿児島大学理工学研究科)・氏家由利香・浅見崇比呂(信州大学理工学研究科) ウスカワマイマイは、作物や苗に付着した移動によって、全国的に広がっており、国内外来種としての側面を持っている。ウスカワママイの亜種には、本土に分布するウスカワママイ、大隅諸島~鹿児島県南部に分布するとされるオオスミウスカワマイマイ、奄美群島に分布するとされるキカイウスカワマイマイ、原名亜種で沖縄群島に分布するとされるオキナワウスカワマイマイ、隠岐に分布するとされるオキウスカワマイマイの5亜種が記載されている。今回検討した、オキウスカワマイマイを除く4亜種は、殼の形態が連続的で区別できないため、mtDNAのCOI領域の塩基配列を求め、各島嶼に分布する個体群間の類縁関係の分析を最尤法を用いて行った。その結果、従来認められていた4亜種は区別がつないことがわかった。島嶼間の変異よりも、本土集団間の変異の方が大きい事例もあった。島間の物資の流通による国内外来種の影響を考慮しても、本種をいくつかの亜種に分けることが不可能であることが解った。また、タママイマイとされることもある西表島のオキナワウシカワマイマイもウスカワマイマイと同じグループであり、台湾に分布するタママイマイとの類縁関係も再検討を要することが解った。
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冨山清升 . アフリカマイマイの攪乱地嗜好性と外来種害虫になり得た訳 . H28年度鹿児島大学生物多様性シンポジウム「薩南諸島の外来種」 鹿児島大学生物多様性研究会招待
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開催年月日: 2017年3月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:鹿児島県奄美市名瀬AiAi広場
アフリカマイマイの攪乱地嗜好性と外来種害虫になり得た訳 冨山清升(鹿児島大学理工学研究科) アフリカマイマイは東アフリカのサバンナ地帯を原産地とする外来種で、1930年代に日本に持ち込まれた。奄美群島では、農業害虫として、また、衛生害虫として身近に知られているアフリカマイマイであるが、国の法律で特殊病害虫指定を受けていることもあって、2007年に鹿児島県本土の出水市と指宿市で発見された際には大騒動になった。本種は広東住血線虫という寄生虫の中間宿主であり、これが人に感染すると脳神経系に入り、場合によっては重篤な神経障害を発症する。しかし、本種の感染ルートは限られ、生食のほか、最終宿主のネズミの糞の付いた野菜を洗わずに食べる、マイマイ類を叩きつぶした素手でおにぎりを食べる、等々の特殊な事例で感染の可能性がある。広東住血線虫の中間宿主はアフリカマイマイだけでなく、通常のマイマイ類やナメクジ類、カエル類、コウガイビル類、カワエビ類と多岐にわたっており、ことさらアフリカマイマイだけを怖がる必要はない。 アフリカマイマイの農業害虫としての側面では、全世界の熱帯・亜熱帯の侵入地域において、爆発的な増殖を示し、農作物に甚大な被害を与え続けている。しかし、侵入後、10年以上経つと急激にその数を減らし、農業被害も軽減してしまう現象が経験的に知られてきた。何らかの捕食・被捕食の関係が成立するのだろうと推定されているが、これは汎世界的に見られる現象で、そのメカニズムは解明されていない。奄美・沖縄地域でも、1970年代初頭ぐらいまでの侵入初期には、畑地で足の踏み場もないくらいの密度にアフリカマイマイが増殖し、手が付けられない状態だったと地元の方々は異口同音にその経験を語って下さる。しかし、現在では、本種はそこそこに生息はしているものの、目立った農業被害は出ていない様である。 本種の原産地は、降水量が少なく、降雨期と乾燥期が不定期なことが多く、非常に不安定な生息環境である。このような不安定な環境下で進化してきたため、侵入した地域でも、環境の不安定な攪乱地を好む傾向が強い。畑地やプランテーションは、在来の自然環境の中では攪乱された場所であり、本種が持つ攪乱地嗜好性という生態的特性が、農地という環境によく合っていたということになるのだろう。このため、本種は、森林の内部よりも林縁部のヤブ地を非常に好む傾向がある。最近、本種はブラジルに侵入したが、南米における本種の分布と発生状況と気候を関連づけたモデル分析でも、本種の気候嗜好の特性について似たような考察がされている。さらに、開発されたばかりの農地は、競争種や捕食者に欠けるという一般的な特性がある。農地やプランテーションでは、高い繁殖力・攪乱地嗜好性・他種の欠如、という3条件が揃って、本種は爆発的な増殖を示すのだと思われる。 本種の畑地での農業被害が著しい場合、畑地の中、もしくは、その周辺に日中のねぐらが確保されている場合が多い。奄美大島の空港道路周辺では、道路脇のハイビスカスの植え込みの中や、道路際のやぶにはアフリカマイマイが見られるが、森の中に入るとアフリカマイマイをみかけることは稀である。畑地にアフリカマイマイの昼間のねぐらが少ない場合、その被害は著しく軽減されることが観察されてきた。特に、被害の著しい畑地は周囲を林で囲まれていることが経験的に知られてきた。本種は、プランテーション、集落地、畑地などに多く、自然林の中ではむしろ生息数が少ないことが報告されている。多くの研究において、アフリカマイマイは、昼間は畑地の周辺の森林と畑地の境界に存在するやぶの周辺に潜んでおり、夜間に畑地にはいだしてきて農業被害をもたらしている観察事例が報告されている。 そこで、実際に本種が、畑地周辺のヤブにおいて生息密度が高く、森の奥には生息していないのか、密度調査を行ってみた。また、昼間のねぐらが本当に林縁部に集中するのか、電波発信機を直接装着し、追跡観察を行った。過去の研究で、本種がねぐらと畑を往復する帰巣行動が観察されているため、本種の帰巣行動も検討してみた。 本種は、昼間は、道路から1.5~2.5mほど奥に入ったヤブ付近に最も多く、その周辺に潜んでいることがわかった。同じ日の夜間になると、道路際の草地に這い出してきていた。夜間密度は、ねぐらから這い出して活動することにより、調査区全体に密度が分散する訳ではなく、むしろ草地の密度が高く、本種が昼間は林縁部のやぶに潜んでおり、夜間に摂食や繁殖行動のために草地の開けた場所に出てくる基本行動を持つことが明らかになった。また、電波発信機による追跡観察の結果、本種は森林の奥に潜むことはなく、ねぐらの移動もあまりしていないことも解った。振動センサー付きの電波発信機を装着した個体の追跡調査の結果、本種は、晴天時には、完全な夜行性の行動習性を示すこともわかった。これらの観察結果は、アフリカマイマイの畑地の被害は夜間に集中して生じ、昼間は、畑地周辺のやぶに潜んでいる、というこれまでの観察結果と一致した。 電波発信機での追跡観察では、アフリカマイマイは幼貝の頃は、移動性が強く、直線的に移動している。未成熟の幼貝の直線移動距離(昼間のねぐら場所の移動)は、半年で約500 mという結果が出ている。成熟すると、定着性が強くなり、約5 m四方の同じような範囲を動き回っていることがわかった。移動は直線距離に直すと、一晩に10 ~ 20 mくらいは動いている。成熟個体は、帰巣性が強く、毎晩、同じねぐらに潜んでいることが多い。畑地や道路脇では、周辺の林縁部のヤブに昼間は潜んで、夜間にはいだしてくる生活をしている。 クリスマス島の研究例では、本種が自然林に生息できない原因は、自然林に生息するレッドクラブというカニが本種を強く捕食するためである、と結論付けている。しかし、小笠原諸島や奄美・沖縄地域、ブラジルでの研究事例では、そのような強い捕食圧は観察されていない。 一連の研究の考察の結果、アフリカマイマイが自然林内にあまり見られないのは、捕食などの他種との関係に因るではなく、本種が攪乱地を好む生態特性を持つためであり、その攪乱地嗜好性が、世界中に分散して、農業害虫となった本質的特性であろうと結論付けられている。 冨山清升(とみやま きよのり) 1960年神奈川県生まれ。鹿児島大学理工学研究科地球環境科学専攻准教授。東京都立大学理学研究科生物学専攻博士課程修了。理学博士。国立環境研究所野生生物保全研究チーム、茨城大学理学部地球生命環境科学科を経て、1998年から現職。陸産貝類(でんでんむし)や干潟の貝類を対象として、進化や生態学、行動学に関する研究を行う。アフリカマイマイは、基礎生態の観点から研究を行ってきた。
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Kazumasa Ookubo, Kiyonori Tomiyama & Takahiro Asami . Biogeography and taxonomy of Genus Cyclophorus (Prosobranchia: Chyclophoridae) in Kagoshima prefecture, Japan . The 22nd International Congress of Zoology International Congress of Zoology国際会議
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開催年月日: 2016年11月
記述言語:英語 会議種別:ポスター発表
開催地:Okinawa, Japan
The traditional classification of land snails has heavily relied to the comparative morphology of shell. However, shell characters are susceptible convergence due to similar ecological requirements or can be highly variable due to geographic isolation and random genetic drift. Therefore, the information based on only shell morphologies is not enough for definite identification. Recent studies are conducted by integration of various approaches, including analyses of shell and anatomical characters and assessment of genetic variation. Those studies provided new imformations into existent classification. Moreover, land snails invite regional differentiation because of their low mobility. Therefore, they provide informative information for biogeographical study. The genus Cyclophorus has a wide-ranging distribution from Southeast Asia to East Asia and belongs to terrestrial prosobrances having a operculum. The intraspecific shell morphology of this genus is variable. Five Cyclophorus species inhabit Kagoshima prefecture; Cyclophorus herklotsi MARTENS, 1860, Cyclophorus hirasei PILSBRY, 1901, Cyclophorus oshimanus KURODA, 1928, Cyclophorus kikaiensis PILSBRY, 1902, Cyclophorus turgidus (PFEIFFER, 1851). These five species that previously had been described on the basis of shell characters only. The phylogenetic relationship of these species has never studied before. The objective of this study was to revise the five Cyclophorus species which inhabit Kagoshima prefecture by using morphological and molecular phylogenetic approaches. Shell morphology of these five species showed geographic variation. Patterns and sizes of shells of those showed individual differences. I sequenced 548bp of the mitochondrial cytochrome oxidase subunit I (COI) gene in the genus Cyclophorus and constructed phylogenetic trees, using Neighbor-joining method and Maxumim-likelihood method. Sequences of Amami-oshima devided Cyclophorus into two groups largely. One group was composed Cyclophorus from the north peninsula named ‘Kasari-hanto’ of Amami-oshima. The other group was composed of Cyclophorus from the middle part of Amami-oshima to Tokuno-shima. Cyclophorus of Tanega-shima & Yaku-shima were included in the group of species from the mainland of Kagoshima; Cyclophorus herklotsi MARTENS, 1860. This result was consistent with traditional taxonomy. Thus, classification based on morphological data was very unsatisfactory in the genus Cyclophorus. This study suggested the necessity to revise the existent taxonomy of the five Cyclophorus species. This study found that shell morphology of Cyclophorus showed multiple phenotype. To identify species of this genus, it is the most effective tool to use molecular phylogeny analyses.
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今村隼人・大窪和理・冨山清升 . mtDNAのCOI領域の遺伝的変異の分析に基づくウスカワマイマイの島嶼個体群間の変異と域内外来種として見た本種の特徴 . 三学会合同鹿児島大会 日本生態学会九州支部会国際会議
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開催年月日: 2016年5月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:鹿児島大学
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中山弘章・冨山清升 . 殼形態に基づくタネガシママイマイ(Satsuma tanegashimae)の種内変異の研究 . 三学会合同鹿児島大会 Ecological Society in Kyushu
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開催年月日: 2016年5月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:鹿児島大学
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大窪和理・浅見崇比呂・氏家由里香・内田里那・冨山清升 . 鹿児島県内における前鰓亜綱陸産貝類の系統解析 . 三学会合同鹿児島大会 Ecoligical Society in Kyushu
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開催年月日: 2016年5月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:鹿児島大学
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福島聡馬・冨山清升 . 薩摩半島南部における淡水産貝類の分布について . 三学会合同鹿児島大会 Ecological Society in Kyushu
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開催年月日: 2016年5月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:鹿児島大学
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鮒田理人・冨山清升 . 鹿児島県鹿児島市街地における陸産貝類の分布 . 三学会合同鹿児島大会 Ecological Society of Japan
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開催年月日: 2016年5月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:鹿児島大学
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神薗耕輔・冨山清升 . 鹿児島県中央北部における陸産貝類の分布 . 三学会合同鹿児島大会 Ecological Society in Kyushu国際会議
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開催年月日: 2016年5月
記述言語:日本語 会議種別:口頭発表(一般)
開催地:鹿児島大学
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坂井礼子,市川志野,中島貴幸,片野田裕亮,*冨山清升. . 鹿児島県の奄美大島およびトカラ列島の陸産貝類の生息現況と生物地理. . 日本生態学会 第63回大会 日本生態学会 第63回大会
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開催年月日: 2015年3月
記述言語:日本語
開催地:鹿児島市 鹿児島大学郡元キャンパス
国内学会
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青山到、髙橋美樹、氏家由利香、冨山清升、浅見崇比呂 . カタツムリ陰茎彫刻の進化と種形成 Evolution of snail penial sculpture and speciation . 日本動物学会 日本動物学会
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開催年月日: 2014年9月
記述言語:日本語
開催地:仙台市
国内学会